効果限界、打つ手なく

 緊急事態宣言を巡る首相らの発言(似顔 本間康司)
 緊急事態宣言を巡る首相らの発言(似顔 本間康司)
菅義偉首相が新型コロナウイルス緊急事態宣言の全面解除に踏み切った。首都圏住民に自粛疲れが充満し、これ以上続けても効果に限界があるとの到達感なき決断。打つ手は見いだせず、専門家の間でもやむなしと閉塞(へいそく)感が漂う「お手上げ解除」が実態だ.....
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 菅義偉首相が新型コロナウイルス緊急事態宣言の全面解除に踏み切った。首都圏住民に自粛疲れが充満し、これ以上続けても効果に限界があるとの到達感なき決断。打つ手は見いだせず、専門家の間でもやむなしと閉塞(へいそく)感が漂う「お手上げ解除」が実態だ。感染再拡大が既に始まっているとの懸念が出る中、首相は苦境が続く。政府と知事側との連携不足も続いており、不安は尽きない。[br][br] ▽選択肢なし[br][br] 「全面解除でいく」。17日、官邸の首相執務室。首相は西村康稔経済再生担当相ら関係閣僚を前に、硬い表情で一方的に告げた。前日の会合では西村氏らによる感染状況の説明への聞き役に徹し、口を開くことはほとんどなかった。[br][br] 首相にとって、21日まででの解除以外に選択肢はなかった。官邸筋は「国民に厭戦(えんせん)気分が広がっている。次の波がきたときに戦えない」と首相の胸中を代弁する。[br][br] 1月に再発令に踏み切った後、東京都の感染者数に関し「最後は100人以下にしたい」と周囲に明かした首相。だが18日は300人台に達した。目標に大きく届かない現状に、官邸内には解除決定への高揚感はない。[br][br] 「国民の不安は承知の上だ。『ウィズコロナ』でやっていくしかない」。感染再拡大の影が忍び寄る中、首相は自らにこう言い聞かせた。[br][br] ▽気掛かり[br][br] 宣言が長期化するにつれ、国民に行動変容を促す「アナウンス効果」が弱まった。これが首相の判断に大きく影響したのは間違いない。NTTドコモの1都3県のデータに基づき、再発令後最初の日曜日の1月10日と、約1カ月後の日曜日の2月7日を比べると、全20地点のうち18地点で人出が増加。2月7日と3月14日の比較では全20地点で増えた。閣僚の一人は「日本ではロックダウン(都市封鎖)はできない。日本モデルの限界だ」と解説した。[br][br] 一方、首相の気掛かりは、神経戦を繰り返してきた東京都の小池百合子知事の動向だった。3月上旬の宣言延長決定を巡り、1都3県知事の思惑にずれが生じ、協力体制が崩壊。その後、小池氏は宣言解除の是非を巡り沈黙を守っていたが、発言した場合の影響力は侮れなかったからだ。[br][br] 首相は17日の閣僚会合後、記者団に解除方針を明らかにする構えだったが、小池氏に事前発信を批判されるのを恐れ、いったん取りやめた。だが同日の都の感染者数が400人台に増えたため「解除するという政府方針を今示しておいた方が得策だ」(政府筋)として、当初方針に回帰した。首相周辺は「最後まで小池氏に振り回された」と疲労をにじませた。[br][br] ▽進むも地獄[br][br] 宣言解除の是非を巡っては専門家も苦悩を深めた。厚生労働省の専門家組織が都内で11日に開いた非公式会合。既に感染者数下げ止まりが明らかで「むしろ増加に転じているのではないか」との見解が示されると、重苦しい雰囲気に包まれた。[br][br] 「延長しても国民の納得を得るのは難しい」との意見も出た。リバウンド(感染再拡大)が懸念されるとの強いメッセージを出すしかないとの結論しかなかった。[br][br] 専門家組織メンバーの前田秀雄・東京都北区保健所所長は宣言解除について「政治的には『進むも地獄、退くも地獄』なのだろう」と指摘。「皆さんが心理的に安心すれば(感染者数が)ぐっと上がってしまうのが怖い」と打ち明けた。 緊急事態宣言を巡る首相らの発言(似顔 本間康司)