政府は安定的な皇位継承策に関する有識者会議を設置し、ようやく本格的な検討に乗り出す。会議の全メンバーが別の政府会議の経験者という「無難」な人選で、皇室専門家もあえて入れず中立性に腐心。互いに持論を譲らず、内部分裂するような事態を回避したいとの思惑がにじむ。一方、政府は明確な結論提示には及び腰で、自民党内からも「拙速な議論は慎むに限る」(ベテラン)と同調する声が出ている。[br][br] ▽白羽の矢[br][br] 「高い見識を有する方に、さまざまな分野から集まってもらった」。加藤勝信官房長官は16日の記者会見で、有識者の人選理由をこう説明した。[br][br] メンバーは男女3人ずつで、年齢層は40代から60代と比較的広く、専門分野はばらばらだ。一見すると共通点はないが、政府の別の有識者会議に名を連ねているのが特徴だ。冨田哲郎JR東日本会長は、地方創生の総合戦略を議論する「まち・ひと・しごと創生会議」に参加。俳優の中江有里氏は文化庁の文化審議会委員を務める。[br][br] 国際政治が専門の細谷雄一慶応大教授は、安倍前政権下の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)のメンバー。行政法に詳しい大橋真由美上智大教授は地方制度調査会の委員でもある。[br][br] 上皇さまの天皇退位を巡る有識者会議でヒアリングを受けた専門家は「一般的には政府の事務方に過度に逆らわない学者が選ばれやすい」と解説。過去の政府会議での発言を参考に、自己主張ばかりではなく、落ち着いた環境で議論できるメンバーに白羽の矢が立ったとみられる。[br][br] ▽前例踏襲[br][br] 計6人というメンバーの人数は退位の有識者会議と同じで、前例踏襲の狙いもありそうだ。清家篤日本私立学校振興・共済事業団理事長と宮崎緑千葉商科大教授はともに退位有識者会議のメンバー。政府高官は「前回からの流れを継続するため、2人は『再任』したかった」と明かした。[br][br] 皇室問題を専攻する学者がいないのも目を引く点だ。官邸幹部は「平均的な国民感覚で意見をくみ取るのが大事。確固たる信念を持つ人は避けるべきだ」と指摘。「強い主張」を持つ専門家からは、個別ヒアリングで意見を吸い上げる方針だ。ある大学教授は「男系維持を求める保守派の学者は立場上も主張を曲げられない。仮に女性・女系天皇の推進派も入れば、大論争で収拾がつかないのは明らかだ」と語る。[br][br] ▽パンドラの箱[br][br] 加藤氏は16日の参院内閣委員会で、ヒアリング対象の専門家に関し「若い世代の意見を聞くのも重要だ」と強調。一方、同委や記者会見で結論を出す時期を含めた議論の具体的な進め方を問われても「スケジュールありきではない」「有識者が考えることだ」と言葉を濁し続けた。新型コロナウイルス対応に追われる中、政治的に重い課題である皇位継承策で言質を与え、政権の方針を縛られたくないという思いが垣間見える。[br][br] 「消極的な姿勢」(野党筋)は与党内でも共有される。自民党の四役経験者は女性・女系天皇容認論や女性宮家創設を念頭に「議論の内容次第では保守派が騒ぐ」と懸念を示す。次世代の継承資格者として、秋篠宮さまの長男悠仁さまがいるとして「まだ切迫感は薄い。このタイミングで『パンドラの箱』を開ける必要はない」と語った。