【特定妊婦】切れ目ない母子支援課題 縦割り弊害、地域差も

 大阪府和泉市が地域の病院との情報共有を目的として定期的に開いている会議=2020年11月、和泉市(同市提供)
 大阪府和泉市が地域の病院との情報共有を目的として定期的に開いている会議=2020年11月、和泉市(同市提供)
貧困や障害などで妊娠期からの支援が必要な「特定妊婦」はこの10年で約7倍に増加した。出産前から育児中まで切れ目ないサポートが重要だが、行政の母子保健と児童福祉の縦割りの弊害も指摘される。誰を支援対象とするかの定義はあいまいで、自治体の支援に.....
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 貧困や障害などで妊娠期からの支援が必要な「特定妊婦」はこの10年で約7倍に増加した。出産前から育児中まで切れ目ないサポートが重要だが、行政の母子保健と児童福祉の縦割りの弊害も指摘される。誰を支援対象とするかの定義はあいまいで、自治体の支援にはばらつきが大きい。どこでも安心して産み育てられる環境整備へ課題は山積みだ。[br][br] ▽多発するSOS[br] 「もしあの時、相談しなかったらと考えるだけでぞっとする」。生後4カ月の長男を抱いた福岡県の女性(21)は振り返った。臨月だった昨年10月、役所への相談を機に、特定妊婦らを支える福岡市の産前・産後母子支援センター「こももティエ」の施設に入居した。ここは市から事業委託された社会福祉法人が運営する。[br][br] 親と折り合いが悪く、10代で家を出た。つわりでアルバイトができなくなり無収入に。家賃を滞納し、食費も切り詰める生活。妊娠はうれしかったが、健診に払う金はなかった。支援を得て、女性は生活保護を申請、4月から通信制の高校で高卒資格の取得を目指す。[br][br] 産前産後を一貫して柔軟に支える施設は全国的にも珍しく、会員制交流サイト(SNS)などを通じて、宮城や埼玉など他地域からの相談も多い。大神嘉(おおがみまこと)センター長は「母親の抱える苦しさが虐待につながることもある。妊娠期からの対応は欠かせない」と話した。[br][br] ▽統一基準を[br] 特定妊婦への支援は2009年の改正児童福祉法で明記された。生後間もない赤ちゃんの虐待死といった深刻な事案を予防するには、妊娠期からの継続的な対応が必要との考えが背景にある。[br][br] 若年や望まない妊娠の他、知的・精神障害、貧困、複雑な家庭環境などを抱える妊婦が主な対象となるが、国や国際機関による具体的な定義はない。認定は、市区町村などの要保護児童対策地域協議会(要対協)に一任されているのが実態だ。[br][br] 大阪府和泉市は要対協内に特定妊婦に特化した部会を設けるなど対策に力を入れる。過去の虐待やサポート態勢の有無などから支援の要否を判断する評価シートを活用。地域の病院とも定期的に情報共有する。[br][br] 時には出産する病院を探したり、妊婦健診に同行したりと、きめ細かく伴走。「事前に相談してもらえる関係を築くことを心掛けている」と担当者。一方で里帰り出産や引っ越しの際、申し送り先の自治体の対応に認識の差を感じることもあり、「全国的な統一基準が必要だ」と訴える。[br][br] ▽歩み寄って[br] 加えて複数の専門家は行政の縦割りの弊害を指摘する。要対協の支援対象のうち、特定妊婦はわずか3%。事務局を児童福祉部門が担うことが多く、目の前の子どもの虐待リスクを減らす対応がどうしても中心となる。[br][br] 妊娠届の受理などで妊婦と接点が多い、母子保健部門との連携が不十分だと、適切な支援につながりにくい。母子保健の現場からは「要対協に情報を伝えても生かされないことがある」との不満も聞こえる。[br][br] 流通科学大の加藤曜子教授(児童家庭福祉)は「病歴など個人情報の共有は、守秘義務のある要対協だからできる」と指摘。「出産から子育ては一連の流れ。母子保健と福祉に加え、医療、教育などの関係者も歩み寄り、総合的に支援すべきだ」と強調した。 大阪府和泉市が地域の病院との情報共有を目的として定期的に開いている会議=2020年11月、和泉市(同市提供)