米上院のトランプ前大統領の弾劾裁判が終わり、発足1カ月のバイデン政権にとって山積する課題に本格的に取り組む環境が整うことになった。[br][br] 裁判で無罪となったトランプ氏は今後も米政治へ関与していく構えだが、民主主義の根幹である選挙結果をひっくり返そうとして支持者らを扇動、議会を襲撃させた責任はあまりに重い。米国民が弾劾裁判を「トランプ政治」から決別する機会とし、深まった社会の分断の修復を目指すよう期待したい。[br][br] 同氏は無罪になったものの、上院共和党議員50人のうち7人が弾劾賛成に回った事実はその支配力が弱まっていることを示すものだろう。昨年の1回目の弾劾裁判では造反はわずか1人だった。弾劾に反対した中にもトランプ氏の「反乱の扇動」を批判する議員は多く、上院共和党の指導者マコネル院内総務は同氏が襲撃を止めなかったことを「恥ずべき義務の放棄」と厳しく指弾した。[br][br] 賛成した共和党議員の1人が「自身の選挙と権力保持にしか関心がなかった」と非難した通り、米国第一主義は結局のところ「自分第一主義」でしかなかったということだろう。[br][br] だが、共和党や支持者らへの影響力は依然強大だ。下院共和党では、トランプ派が6割を超える最大勢力だ。上院の裁判に先立つ下院の弾劾訴追では、共和党から賛成に回ったのは200人超のうち10人にすぎなかった。同氏はこうした造反組に対し、選挙で対抗馬を立てるなど報復する姿勢を示しており、共和党の分裂や国民の分断がさらに加速する懸念もある。[br][br] バイデン大統領はトランプ氏との泥沼の政争を避けるため、弾劾裁判に距離を置いてきたが、裁判が終わったのを受け、議会の協力を得ながら自らの政策を積極的に推進する方針だ。[br][br] 大統領の喫緊の課題はコロナ禍対策と経済の復興だ。まずはワクチン接種を拡大し、1兆9千億ドル(約200兆円)の経済対策の成立を優先したい考え。前政権がウイルス封じ込めに消極的で、世界最悪の感染状況を招いただけに、バイデン氏の取り組みを高く評価したい。[br][br] 大統領はこの他、インフラ投資や移民政策などを進める計画で、3月にも行う施政方針演説で国民の支持を訴える。だが、こうした政策は前政権の否定につながり、トランプ派からの反発は必至だろう。大統領が政策を着実に実行して国民を味方に付け、民主主義を危機に陥れた「トランプ政治」から脱却するよう期待したい。