菅義偉首相が看板政策として掲げている「デジタル改革」に向けた動きが具体化してきた。[br] 官民のデジタル化をけん引する強力な権限を持つ司令塔の「デジタル庁」が9月に発足するのに合わせ、民間人材を先行的に採用する公募が4日から始まった。500人規模でスタートするデジタル庁には民間人材を100人以上起用し、兼業やリモートワークを柔軟に認めて優秀な人材を集めるとしている。[br] 施政方針演説で菅首相は「あらゆる手続きが役所に行かなくてもオンラインでできる仕組みをつくる」と述べ、地方にいながら都会と同じように仕事もできる社会の実現を目指すと強調。医療、教育、防災分野でもデジタル化を進め、民間を支援する政策の方向性を打ち出した。[br] 行政をデジタル化する「デジタル政府」のコンセプトは「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」だ。若年層から高齢世代まで安心できるデジタル環境を整備し、多様なサービスの価値を向上させ、選択可能で生活の利便性を高める仕組みづくりが不可欠となる。[br] 政府は2000年にIT基本法を制定し「世界最先端のIT国家」を目指すとしたが、世界レベルからは立ち遅れている。国連が昨年7月に発表した世界電子政府ランキングによると、20年の日本の順位は14位で、18年の10位から後退している。[br] デジタル化の加速を図ることは妥当な政策であり、政府はIT基本法の全面的な見直しを行う方針だ。[br] 昨年12月に閣議決定したデジタル化推進の基本方針と実行計画では、国の行政手続きの原則オンライン化を打ち出し、国民生活に直結する地方公共団体の情報システムを、25年度までにクラウドに移行して連携するとした。[br] そのためには国と地方の業務の仕組みや方法、システムの統一が必要であり、しかも改革へ向けた作業は迅速に進めなくてはならない。[br] またマイナンバーカードを官民の各種手続きの主軸と位置付けているが、カードに対する国民の不安感の解消や、利便性の改善も課題だ。[br] 日本の役所社会はすべてが縦割り組織になっている。中央省庁をみても、二重、三重行政という現実がある。デジタル庁の創設で、政策・予算を一元化するとはいえ、省益保護の官僚意識を変えることができるかが鍵となる。デジタル政府を実現することは、縦割り行政打破への試金石だと言える。菅首相の強いリーダーシップが問われる。