【超高齢社会の先へ】第5部 未来を見つめて(1)

おげんき発信を利用する和田與四郎さん。発信が生活の励みになっている=11月28日、岩手県滝沢市
おげんき発信を利用する和田與四郎さん。発信が生活の励みになっている=11月28日、岩手県滝沢市
企画「超高齢社会の先へ」では2019年12月から1年にわたり、「2025年問題」が目前に迫る北奥羽地方の現状を取材し、課題解決への糸口を探ってきた。最終章となる第5部では地域で暮らす高齢者を支える取り組みと、「支え手」として活躍する高齢者の.....
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 企画「超高齢社会の先へ」では2019年12月から1年にわたり、「2025年問題」が目前に迫る北奥羽地方の現状を取材し、課題解決への糸口を探ってきた。最終章となる第5部では地域で暮らす高齢者を支える取り組みと、「支え手」として活躍する高齢者の姿を通して、困難を乗り越えた先にある超高齢社会の未来を展望する。[br][br] 岩手県では、高齢者が自宅にある電話機を操作して手軽に日々の体調を伝えるシステム「おげんき発信」を地域の見守り活動に役立てている。情報通信技術(ICT)を活用し、県立大が開発したシステムで、県社会福祉協議会の事業として市町村社協と連携して運用。何かあったときに通報する従来の「緊急通報システム」とは異なり、毎日の健康状態を高齢者が自発的に発信することに大きな意義を見いだす。[br][br] 利用するのは単身世帯の高齢者で、「元気」「少し元気」「具合が悪い」など、その日の体調を1日1回、電話機の番号を押して報告。その情報を基に、各市町村の社協職員や民生委員ら見守り協力者が安否確認を行い、支援活動に生かしている。[br][br] 高齢化や過疎化が加速する地方において、孤立する高齢者の増加は課題の一つだ。社会とのつながりが希薄になると認知症の進行や生活機能の低下などの異変が起きやすく、最悪の場合は孤独死などを引き起こす要因にもなり得る。 こういった背景から見守り体制の構築が急がれる一方、「周囲に迷惑を掛けたくない」「近くに頼れる人がいない」などの理由から、通報をためらう高齢者が多いのが現状だ。[br][br]   ◇   ◇[br][br] おげんき発信を開発した同大の小川晃子名誉教授(社会福祉学)は「何かあってから通報するのではなく、高齢者が自ら『自分は元気だ』と日常的に発信できる環境にしなければならない」と強調する。[br][br] 県内外でのフィールドワークを通して、かたくなに通報を拒む高齢者が少なくない状況を目の当たりにし、緊急通報システムとは異なる見守り体制の必要性を痛感。03年から「おげんき発信」の開発に乗り出し、実証を踏まえて改良を続ける。[br][br] 従来の緊急通報システムと大きく違うのは、使う側の心理的な負担の軽減を図った点だ。日常的に利用してもらう仕組みにすることで、「『見守られている』=『見張られている』」という不信感や「申し訳ない」という遠慮を取り払った。認知症の進行などにより発信できなくなった場合は、速やかに異変に気付いてもらえるようにし、「元気」を毎日発信することに大切な意味を持たせている。[br][br] 7年前から1人暮らしをする滝沢市の和田與四郎さん(73)は、今年の10月からおげんき発信を利用する。地元の川前地区高齢者支援連絡会の一員として見守る側であり、見守られる側でもある和田さんは「毎朝の励みになっている」と実感を込める。[br][br]   ◇    ◇[br][br] 同大では現在、認知症の進行度合いや身体機能の状態に応じた支援体制の構築に向けて、センサーやAIスピーカーを活用した見守りシステムの実証実験にも着手する。目指すのは、これまで遠慮や気恥ずかしさから相談できなかった人が相談できるきっかけづくりだ。[br][br] 小川名誉教授は「市町村社協や民生委員の協力も欠かせない。地域全体を巻き込みながら利活用を促進していきたい」と展望を語る。見守りの範囲にとどまらずに、地域コミュニティーの再構築に波及させていきたい考えだ。おげんき発信を利用する和田與四郎さん。発信が生活の励みになっている=11月28日、岩手県滝沢市