時評(12月19日)

政府が地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」計画を断念したことに伴う、新たなミサイル防衛に関する文書が閣議決定された。 文書は、(1)イージス艦2隻の新造(2)射程圏外の長距離から相手を攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイ.....
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 政府が地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」計画を断念したことに伴う、新たなミサイル防衛に関する文書が閣議決定された。[br] 文書は、(1)イージス艦2隻の新造(2)射程圏外の長距離から相手を攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の開発―が柱。日本を標的とした弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有については文書には明記せず、抑止力の強化について引き続き検討するとした。[br] 日本周辺では、北朝鮮が精力的に弾道ミサイル開発を継続した結果、その性能は飛躍的に向上したとされる。中国は尖閣諸島周辺の東シナ海を含めて軍事的な海洋進出を活発化し続けている。日本が弾道ミサイルの脅威に対して、適切な備えをとるのは当然のことだ。[br] 一方で、敵基地攻撃能力の保有だけでなく、相手の射程圏外から攻撃できる長射程巡航ミサイルであるスタンド・オフ・ミサイルの導入についても、なお慎重な検討が必要だろう。[br] 野党からは、戦後日本が防衛政策の基本としてきた専守防衛からの転換を意味すると、批判の声が上がる。政府内にとどまらず、国会での与野党による突っ込んだ議論が欠かせない。[br] 日本の財政状況は新型コロナウイルス禍によって一段と厳しさを増している。莫大(ばくだい)な費用を要するイージス艦によって高性能の北朝鮮ミサイルを迎撃することは本当に可能なのか。費用対効果について厳しく査定していかなければならない。[br] とりわけ議論が必要なのが敵基地攻撃能力の保有の是非だ。安倍晋三前首相は、退陣直前に談話を発表して、年内に保有の方針を決定することへの期待をにじませた。しかし、1年以内に衆院選を控える中で、公明党が特に慎重な対応を要求したこともあり、今回の文書には盛り込まれないことになった。[br] 日本を取り巻く安全保障環境が極めて厳しいことは事実だ。同時に国際情勢は特に近年、激しく変動している。北朝鮮の動向も来年1月の米国のバイデン新政権発足を契機に大きく変化する可能性も否定できない。[br] 日本としては、有事への備えを万全にすると同時に北東アジアの緊張緩和に向けて能動的な外交努力を展開することが求められている。特に米中関係が緊迫化している今こそ、両国の間を取り持つとともに、地域の緊張緩和に向けて主体的に動くことが必要だ。北東アジア情勢の安定こそが最も効果的なミサイル防衛ではないか。