政策の転換は当然のことだろうが、遅きに失した感は否めない。新型コロナウイルスの感染が広がる中で、菅義偉首相が観光支援事業「Go To トラベル」を今月28日から来年1月11日まで、全国で一斉停止することを表明した。[br][br] 菅首相肝いりの政策として推し進められてきたが、感染拡大による医療の逼迫(ひっぱく)度合いが日に日に高まるという現実の前に、政策転換を余儀なくされた。[br][br] 新型コロナウイルスの国内感染確認者は12日に過去最多の3千人超を記録した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は11月20日以降、3度にわたり厳しい内容の提言を発表。「一部の地域では、通常医療との両立が困難になり始めている」との懸念をあらわにしてきた。[br][br] さらに「年末年始は静かに」とも要請し、感染者が急増するステージ3相当地域をさらに3段階に分け、拡大が継続する地域内でトラベル事業の一時停止を迫っていた。[br][br] こうした状況にもかかわらず菅首相は、GoToトラベルの停止を否定する発言を繰り返した。「経済と感染対策の両輪」と言いながら、経済の再生に軸足を置いた政策を貫いた。[br][br] その菅首相に政策転換を促したきっかけに、国民の声があっただろう。 医療崩壊の危機を強く懸念する医療関係者の声は日増しに強まる。報道各社の世論調査結果ではコロナ対策への不信から軒並み内閣支持率の低下を示すなど、国民の間ではGoToトラベルの一時的な停止を支持する声も多く出されている。[br][br] 政府は、全国的なGoToトラベル一時停止に合わせ、飲食店などの営業時間の短縮期間を延長。年末年始をにらみ協力金の単価を倍増し最大1カ月当たり120万円とする方針だ。また一時停止に伴い発生するキャンセル料について事業者への補償を行うとしているが、こうした手続きを混乱なく進めることが政府には求められる。[br][br] 一方で、GoToトラベルの一時停止措置を機会に、事業運用の制度設計を再構築すべきだ。事業は元々「感染拡大が収束した後」に実施する政策のはずだ。感染状況に合わせて事業を適切に見直す仕組みが作られていないことでさまざまな混乱が生じている。[br][br] 感染状況に合わせて事業を停止・再開する基準を設けて公表するなど、利用者や事業者が予見しやすい事業の在り方を構築する必要があるだろう。感染の広がりの抑止を最優先に政策を進めなくてはならない。