天鐘(12月8日)

太平洋戦争の最中、東条英機首相が埼玉県の陸軍航空士官学校を視察、生徒に「敵機は何で撃ち落とす」と質問した。生徒は「機関砲で」と答えると、言下に「違う。精神力で落とすのである」と胸を張った▼東条の精神主義を物語る逸話だ。戦前ならまだしも米軍が.....
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 太平洋戦争の最中、東条英機首相が埼玉県の陸軍航空士官学校を視察、生徒に「敵機は何で撃ち落とす」と質問した。生徒は「機関砲で」と答えると、言下に「違う。精神力で落とすのである」と胸を張った▼東条の精神主義を物語る逸話だ。戦前ならまだしも米軍がトラック諸島を攻略、サイパン島に迫りつつあった1944(昭和19)年春の事で、既に敗色が濃厚だった▼驚異の胆力と褒めたいが、実は敵の圧倒的な軍事力を前に「絶望的な状況を覆すにはもはや精神力に頼るしかなかった」(加藤陽子著『NHKさかのぼり日本史』)。生徒には悲壮な“叫び”に聞こえたのでは―▼今日は79回目の真珠湾攻撃の日。泥沼の日中戦争から太平洋戦争が始まり310万人が戦死したが、多くはサイパン陥落後の1年半に集中。武器も食糧の補給もなく、ただ精神力で敵に向かい、散っていった▼日本学術会議の会員任命を拒否された加藤氏の『昭和』編を読んでみた。歴史には時代の流れを決定付ける言葉がある。最近なら菅首相の「全く当たらない」と「答弁を差し控える」。まだ耳の奥で反響している▼官房長官時代、精神論を批判され「精神論じゃない。全力で取り組むんです」と“珍答弁”。今国会でも答弁控えを80回も連呼した。語らず批判は拒む非論理の精神論には要注意だ。コロナに対抗するにはまず何より意思疎通の言葉が要る。