時評(12月8日)

日本の探査機「はやぶさ2」のカプセルがオーストラリア南部の砂漠に着地した。6年、52億キロに及んだ小惑星りゅうぐうへの往復の旅はひと区切りついた。2010年に帰還した初代はやぶさに続き、太陽系の大航海を成し遂げた高度な技術の成功を祝いたい。.....
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 日本の探査機「はやぶさ2」のカプセルがオーストラリア南部の砂漠に着地した。6年、52億キロに及んだ小惑星りゅうぐうへの往復の旅はひと区切りついた。2010年に帰還した初代はやぶさに続き、太陽系の大航海を成し遂げた高度な技術の成功を祝いたい。[br][br] 太陽系が46億年前に誕生したときの始原物質に近いとされる砂や石を持ち帰るのが目的だった。玉手箱といえるカプセルの中には、りゅうぐうで採取した砂が入っているとみられる。[br][br] カプセルは日本に輸送されて宇宙科学研究所(相模原市)の専用施設で開封され、太陽系や生命の起源を探る分析がいよいよ始まる。りゅうぐうは小惑星の中でも炭素や水分に富むタイプで、そのかけらから何が分かるのか、興味深い。[br][br] はやぶさ2は、数々のトラブルで満身創痍(そうい)だった初代はやぶさから多くの教訓を得て改良を重ねた。新しい試みも加え軽自動車以下の重量に各種機器を詰め込んだ。[br][br] 18年6月に着いてみたら表面が岩だらけで安全な着陸は難しかったが、工夫を凝らして困難を乗り越え、独仏の小型着陸機やロボットの投下、自律制御による2度のピンポイント着陸などを1年半にわたり実施した。金属弾による人工クレーター形成、風化を免れた地下試料の採取は初めてで、生命の基になった材料の手掛かりになる。その研究には、試料を持ち帰るカプセルの回収が欠かせなった。[br][br] 日本の宇宙開発は米国や旧ソ連から立ち遅れた。今年は日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上がって50年、ハレー彗星(すいせい)探査機「さきがけ」「すいせい」から35年に当たる。数々の失敗を糧に独自の技術を磨き上げた。完璧だったはやぶさ2で一つの集大成に達した。[br][br] 国際協力と競争が交錯する太陽系探査で世界に誇れる惑星間航海の実績は日本の強みになる。裾野は広く、全国の大学や関連企業でも人材は育ってきた。次は月着陸や火星衛星探査が20年代半ばまでに予定されている。はやぶさ2自身もカプセル分離後、11年後に微小な小惑星を目指す軌道に入った。太陽系を観測しながら長旅はまだ続く。[br][br] 日本の宇宙政策は近年、利用に偏重している。宇宙科学に必要な予算枠を確保すべきだ。はやぶさ2出発の際、6年後の帰還時に新型コロナが猛威を振るっているとは予想できなかった。苦しいときだからこそ、未知に挑戦する探査は発見だけでなく、感動を与えてくれる。その意義も大きい。