天鐘(11月23日)

「ああ嫌だ嫌だ」。『たけくらべ』など傑出した作品を残して夭折(ようせつ)した明治の女流作家、樋口一葉もこう叫んだのではないか。日増しに勢いを増す新型コロナウイルスの猛攻である▼一葉の登場人物は俯(うつむ)いて我慢したりせず、「嫌だ!」と叫ん.....
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 「ああ嫌だ嫌だ」。『たけくらべ』など傑出した作品を残して夭折(ようせつ)した明治の女流作家、樋口一葉もこう叫んだのではないか。日増しに勢いを増す新型コロナウイルスの猛攻である▼一葉の登場人物は俯(うつむ)いて我慢したりせず、「嫌だ!」と叫んで次へ行く。だが、叫びは小説の中だけで、自身は現実を見詰め、逃げずにその場所で生き続けた(田中優子著『樋口一葉「いやだ!」と云(い)ふ』)▼17歳で亡父の借金を背負い、母と妹を養うために小説を書いた。結核を患い24歳で没するが、晩年は『十三夜』などの代表作を超人的な勢いで書いた。“奇跡の14カ月”と呼ばれ、森鴎外らから高い評価を受けた▼秋冬本番。コロナの急襲で連日「感染記録」が更新されている。首都圏にはコロナの霞(かすみ)が棚引き、地方のあちこちでクラスターが炸裂。逃げ場は狭まる一方だ。つい「ああ嫌だ!」と現実逃避の嘆息も漏れる▼躊躇(ちゅうちょ)なくと胸を張った菅政権だが、散々逡巡した結果「Go To」見直しに重い腰を上げた。「神のみぞ知る」と口を濁してきた専門家も本音を吐き出した。だが、これで変幻自在のコロナに立ち向かえるのか▼説明不足だ。経済は勿論大事だが、ブレーキを国民に預け、“無言と不作為”のまま急カーブに突っ込めば大惨事は必至だ。ここはきちんとルートを告げ、細心の注意を払って丁寧に進むべきだ。今日は「嫌だ!」の一葉忌。