米企業スペースXの新型宇宙船クルードラゴンが野口聡一さんら日米の飛行士4人を乗せ、フロリダ州のケネディ宇宙センターから国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられた。民間宇宙船の本格運用1号機で、有人飛行が民間主導に移る転換点といえる。ソ連のガガーリンが飛行して約60年で宇宙開発の商業時代が始まった。[br] ファルコン9ロケットの先端に付けられた円すい状のクルードラゴンは順調に上昇し予定通り分離された。ロケット第1段は再使用するため、待機した船に回収された。5~8月の試験飛行を経て米航空宇宙局(NASA)が宇宙ステーションへの有人宇宙船として認証し、打ち上げはほぼ完璧だった。[br] 野口さんは2005年の米スペースシャトル、09年のロシアのソユーズに次ぐ搭乗で、3種類の宇宙船に乗った最初の飛行士だ。今年は新型コロナが流行し、困難な年になった。野口さんらは「厳しい年に新しい息吹を」と、強い回復力を意味する「レジリエンス」を船名とした。[br] NASAは05年に基本政策を変え、宇宙船やロケットの開発を民間に任せた。米国の宇宙船を30年担ったシャトルが11年に飛行を終えた後は、宇宙ステーションへの飛行士輸送をソユーズに頼る一方、企業に開発を競わせた。この方針は奏功した。[br] 先頭に立ったのが米電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が率いるスペースXだった。クルードラゴンは設計が新しく、タッチパネル式の操作で機能的になっている。野口さんは「座席が快適。宇宙服は軽く着心地も良い」と評価する。[br] 世界中で宇宙への投資が加速しつつある。宇宙船が進化して一般の人も乗れるようになれば宇宙観光は成り立つ。その幕開けは近い。日本も宇宙ビジネスの芽は育ってきたが、規模は米国に比べ格段に小さい。得意分野を見つけて伸ばすときだ。[br] 米国が中心になって24年の月面への有人探査を目指すアルテミス計画は日本も加わる国際協力で動き始めたが、月や小惑星の資源採掘で過度な商業化は控えるべきだ。宇宙を人類共有の場とする節度は必要で、その国際条約づくりは欠かせない。[br] 野口さんは宇宙ステーションに半年滞在、多彩な仕事をする。この間、iPS細胞立体培養実験などに取り組み、東日本大震災10年目には復興支援への感謝メッセージを世界に伝える。レジリエンスで帰還するころには文字通りコロナが収まっていることを願いたい。