米大統領選で、環境・気候変動対策の強化を訴えたバイデン前副大統領の勝利が確実になった。バイデン氏が正式に大統領に就任すれば、中国に次ぐ温室効果ガス排出大国の米国はパリ協定に復帰するとみられる。[br] 世界中で異常気象が頻発し「気候危機」が顕在化している。今回の米国民の選択が、各国の協調によって世界が「脱炭素社会」実現に向かう確かな転換点になってほしい。[br] バイデン氏は公約で2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、35年までに電力部門の二酸化炭素の排出をなくすと公言した。[br] さらに石油開発への補助金を打ち切り、4年間で2兆ドルもの巨費を再生可能エネルギー分野に投資。数百万人の雇用を創出すると明言していた。[br] 対するトランプ大統領は就任したその年にパリ協定の脱退を表明。化石燃料産業の振興を最優先してオバマ前大統領時代の環境政策を撤回してきた。[br] 政策が正反対だったため、米国民がどちらを選ぶかは、世界の気候変動対策の進展を考える上で重要な意味を持っていた。[br] 今回、若い世代の投票率が高かった。選挙期間中には温暖化対策を重視する若い人の声が伝えられていた。まれに見る激戦だったが、現在・未来の環境や社会、そして生活を直視した人々の判断が投票に反映した。そう捉えたい。[br] トランプ氏は多くの科学データが示す気候危機を否定し、医学的知見に基づく新型コロナウイルス対策を軽視してきた。こうした姿勢に影響を受け、気候危機を深刻に受け止めない人も依然少なくない。[br] 環境関連法成立の鍵を握る米議会の議席も確定していない。バイデン氏には、議会対策だけでなく、国際協調方針を阻む国内の分断を融和に向かわせるという難題も待ち受ける。新政権がどこまで独自色を出せるかは見通せない。道は極めて険しいが、公約実現を期待したい。[br] パリ協定は産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えることを目指している。だが、各国の温室効果ガス削減目標を達成しても今世紀末には3・2度上昇するという。[br] このため、パリ協定に参加する各国は現行の目標を大幅に上積みしなければならない。日本の目標は「30年度に13年度比26%減」だ。欧州主要国と比べて見劣りするこの数値をまず見直す必要がある。今回の米大統領選の結果を受け、日本は旧態依然のエネルギー構造を一刻も早く転換すべきだ。