厚労省が6日発表した20年度の「現代の名工」に選ばれた、八戸市の木村由記子さん(75)。縫製業に長年携わり、着物のリメークやオーダーメードなどを手掛けてきた。数々のコンテストで入賞を果たし、現在は縫製教室「モード・由記」の代表として後進の育成にも当たる。新たに名工に名を連ね、「生地を眺めていると創作意欲が湧く。これからも生地からの“声”を形にしていきたい」と意欲を語る。[br][br] 元々裁縫は得意というわけではなかったという木村さん。中学時代に母親にミシンを買ってもらったのをきっかけに、衣服作りにのめり込んだ。[br][br] 卒業してからは市内の職業訓練校へ。東京の学校でも学び、技術を磨いた。20歳で帰郷後、市内のオーダー専門の縫製会社に就職し、裁断、仮縫いされた衣装の仕上げを担当。結婚で一度は離れたが、嫁ぎ先の農業の手伝いをしながら、寝る間を惜しんで縫製作業に没頭した。[br][br] 子育てが一段落してから前の職場に復帰。仕上げを長年任されてきたが、「自分でデザインした服を手掛けてみたい」と92年に1級技能士の資格を取得し、翌年に独立した。腕試しとしてコンテストにも毎年参加し、入賞の常連となった。[br][br] 生地を眺める時間が好きで、「この生地だとワンピースがいいかな」「この色だったらあの人に似合うだろうな」と想像を膨らませた。家族にも服を作り、夫の作務衣さむえやコートのほか、長女と長男の妻には自作のウエディングドレスを贈った。[br][br] 目標だったファッションショーを15年に初開催。教室に通う生徒と一緒に作品を披露し、「服が人をつないでいくようでうれしかった」と振り返る。[br][br] 後進の育成にも励み、生徒からの相談をきっかけに着物のリメークにも力を入れた。大病を患った経験から「培った技術を多くの人に広めていきたい」との思いを強くする。[br][br] 縫製の道へ進み、今年で60年。これまで県卓越技能者、市文化奨励賞など数々の賞に輝き、今回新たな称号を手にした。「多くの人の支えがあって、ここまでやってこられた。見聞を広げながら、生涯にわたって続けていく」。名工の情熱が尽きることはない。