激戦となった米大統領選はバイデン前副大統領が再選を目指したトランプ大統領に勝利する勢いだ。ただ、すんなりと政権交代が進みそうにない。トランプ氏があくまでも裁判で徹底抗戦する構えを示しているからだ。[br][br] しかし、その主張にきちんとした正当性があるのかは疑問だ。選挙は民主主義の根幹で、そうした理念を掲げてきた米国の指導者の行動として極めて残念である。平和的な政権交代の範を示すよう要求したい。[br][br] 今回の選挙の特徴は何と言っても、新型コロナウイルスの流行が選挙全般に大きな影響を与えた点だ。感染拡大に悩む国民の関心は高く、投票率はここ100年で最高の67%に達し、バイデン氏の得票も史上最多の7千万票を超える見通しだ。[br][br] 両氏の選挙運動は対照的だった。トランプ氏はコロナ禍の下、マスクも着用せずに精力的に遊説、熱狂する支持者らに直接訴えた。流行が急拡大しているのに「峠は越えた」と軽視、自ら感染、入院した。それでも同氏は専門家の助言を無視し、自身を「スーパーマン」と呼び強さを誇示。コロナ対応の失敗から国民の目をそらし、治安対策の強化などを争点にしたが、うまくいかなかった。[br][br] 一方のバイデン氏は常にマスクを着用し、オンラインや小規模の集会でトランプ氏のコロナ対策を「計画性がない」と強く批判、公共施設でのマスク着用義務化などの政策を静かに訴え続けた。[br][br] 両者の間で政策論議は十分に尽くされなかった。テレビ討論会は2回実施されたが、1回目は「醜悪」(米紙)と評されたように中傷合戦に終始した。[br][br] トランプ氏のバイデン氏攻撃は過熱し、「バイデン一族は犯罪組織」「起訴し収監しろ」などと激化、人種差別抗議デモの参加者を「暴徒」と罵倒した。その半面、白人至上主義者を擁護し、陰謀論者を「愛国主義者」とたたえた。[br][br] トランプ氏は就任以来、「敵と味方」をあおって米社会の「分断と対立」に拍車を掛けた。その二分された国民の姿は選挙で一段と浮き彫りになった。[br][br] 郵便投票で苦戦する同氏は「魔法のように獲得票が消えた」と根拠なく主張し、一部の州の集計停止などを求め提訴。呼応した支持者と反トランプ派市民の間で緊張が高まっている。[br][br] バイデン氏は国が二極化した現状を憂え「国民すべての大統領になる」と呼び掛けてきた。勝利が確定した場合、最初の任務は分断を和らげ、国民統合への一歩を踏み出すことだ。