天鐘(11月7日)

はるか北方のシベリアからやって来る。年間を通して見ることはできないが、ハクチョウは身近な青森県の鳥。里にも雪が舞う立冬を迎えた。季節を告げる冬の使者は、白銀の世界に包まれても優雅に映える▼多くが集まるのは越冬に適した、豊かな自然環境の証しだ.....
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 はるか北方のシベリアからやって来る。年間を通して見ることはできないが、ハクチョウは身近な青森県の鳥。里にも雪が舞う立冬を迎えた。季節を告げる冬の使者は、白銀の世界に包まれても優雅に映える▼多くが集まるのは越冬に適した、豊かな自然環境の証しだろう。飛来数が県内屈指の小川原湖をはじめ、間木堤や芦崎湾などは県南地方の名所。むつ市、東北町、おいらせ町、五戸町の鳥もハクチョウである▼平内町の浅所海岸を含む夏泊半島一帯は、飛来地として全国で唯一の特別天然記念物。〈白鳥の羽音と共に千代までも御稜威(みいつ)絶えせぬいかづちの宮〉。山水の探勝を好んだ文人・大町桂月も感嘆したという▼現地では源義経北行伝説にまつわる悲恋「椿山心中」が語り継がれる。義経は八戸で豪族の娘と深い仲に。北へ旅立った後に生まれた鶴姫は、やがて成長して恋に落ちる。だが相手は頼朝側に仕える武士。2人は逃避行を決意する▼夏泊で追い詰められてしまう。互いの胸を刺し、海に身を投げた。半島のツバキが赤く染まるのは血潮のせい。非業の死を遂げた娘を慰めるため、義経の魂を宿すハクチョウが飛んで来るという▼水辺で羽を広げ、水田で落ち穂をついばむ。何気ない光景も少し印象が変わる言い伝えである。コロナ禍で例年に増して巣ごもりの冬になるのか。歴史のロマンを楽しむくらいの余裕は持っていたい。