天鐘(11月2日)

〈なにもせざれば風邪の神にも会はざりき〉。「風邪」の句を探していたら戦後に活躍した俳人、星野麥丘人(ばくきゅうじん)の句集『雨滴集』でこんな句に出会った。新型コロナのクラスターが頻発(ひんぱつ)する今を生き抜く極意を詠んだ句では―▼風邪は冬.....
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 〈なにもせざれば風邪の神にも会はざりき〉。「風邪」の句を探していたら戦後に活躍した俳人、星野麥丘人(ばくきゅうじん)の句集『雨滴集』でこんな句に出会った。新型コロナのクラスターが頻発(ひんぱつ)する今を生き抜く極意を詠んだ句では―▼風邪は冬の季語。「秋深し」から「枯木立(かれこだち)」「冬浅し」と季節は移ろい、寒さが増して雪がちらつく頃に「冬に入る」。いずれも冬の季語で近年は「マスク」もある▼よく考えると、風邪は冬に限らず春も夏だってある。〈マスクして我と汝(なんじ)でありしかな〉。高浜虚子が転勤で東京を去る弟子の山口青邨(せいそん)に贈った句で、昭和12年の冬の作。だが、今やマスクにも季節はなくなった▼〈マスクもう季語じゃないよね日の盛り〉。NHKの番組でコロナ禍の「新しい日常」を主題に募ったら、こんな秀句が寄せられた。俳人、夏井いつきさんも「コロナで季語まで消えていくとは」と嘆息する▼これも虚子の句で〈コレラ船いつまで沖に繋(かか)り居る〉がある。幕末から明治の夏に大流行したコレラで数十万人の死者が出た。流行が止んだ大正3年、なおも夏の席題に上るほどコレラ禍が日常に深く根を張った▼コロナは息つく間もなく猛攻を仕掛け、秋の第2波は八戸など地方でクラスターが炸裂(さくれつ)している。欧州は再流行で感染者が激増、都市封鎖が相次ぐ。真打ち“冬コロナ”の来襲だ。怖いが巣籠(すご)もりばかりでは心が腐る。さて―。