天鐘(10月23日組)

白菊の大輪を摘む。優しく花びらを抜いて、新聞紙の上に広げる。しっかりと時間をかけて乾かす。光沢のある白羽二重で包み込む。女性俳人の先駆けである杉田久女は、師の高浜虚子に「菊枕」を贈った▼中国で「頽齢たいれいを制す」とされた菊は長寿の象徴。〈.....
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 白菊の大輪を摘む。優しく花びらを抜いて、新聞紙の上に広げる。しっかりと時間をかけて乾かす。光沢のある白羽二重で包み込む。女性俳人の先駆けである杉田久女は、師の高浜虚子に「菊枕」を贈った▼中国で「頽齢たいれいを制す」とされた菊は長寿の象徴。〈白妙の菊の枕をぬひ上げし〉。「清艶高華せいえんこうか」と称えられた作風に女性の細やかさもにじむ。俳句雑誌「ホトトギス」を除名されて確執が深まる前の逸話である▼菊枕に頭を預けると、上品な香りが安眠にいざなうという。実際に菊花は解毒や抗酸化の効能を有し、古くから生薬としても珍重された。奈良時代に中国から日本に伝わった品種は堂々と「延命楽えんめいらく」の名を冠する▼和歌を詠み花をめでる菊合わせ、菊酒に菊湯。重陽ちょうようの節句(9月9日)の主役は菊である。旧暦は現代なら10月半ば過ぎの晩秋に当たる。食用菊の産地・南部町では間もなく主力の「阿房宮あぼうきゅう」が旬を迎える▼緩やかな斜面に広がる黄色のじゅうたん。美しさは名久井岳の錦絵に引けを取らない。日持ちしない花の食味を再現する干し菊は先人の知恵。多様な郷土料理とともに後世へ伝えたい南部地方の風土である▼江戸時代から続く“伝統野菜”だが生産者の減少が続く。「エディブルフラワー(食用花)の元祖」として売り込めないか―と勝手に思案してみるが…。不老長寿の妙薬とあらば、まずは食べて応援しよう。