天鐘(10月4日)

昔、あるところにウサギとキツネとサルが住んでいた。ある日、腹を空かせた一人の老人が現れ、何か食べさせてくれと頼む。キツネは魚、サルは木の実を取ってきた▼ウサギはどうしても食べ物が見つからない。悩んだ末に「私を食べてください」と火の中に飛び込.....
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 昔、あるところにウサギとキツネとサルが住んでいた。ある日、腹を空かせた一人の老人が現れ、何か食べさせてくれと頼む。キツネは魚、サルは木の実を取ってきた▼ウサギはどうしても食べ物が見つからない。悩んだ末に「私を食べてください」と火の中に飛び込む。老人はウサギを哀れみ、月の中に蘇(よみがえ)らせた―。月面に浮かぶ「ウサギの餅つき」へつながる、古きインドの伝説である▼先日の中秋の名月に、そんなちょっと悲しい物語を思い出した。月のお話といえば、日本では『竹取物語』。その満ち欠けの神秘も相まって、天空の球体はこの時季、人をいにしえのロマンへと誘う▼宇宙航空研究開発機構(JAXA)が月の表面に燃料工場を建設する計画だそうだ。本紙によると、宇宙開発の一環で、月面移動等に必要な動力を得る。2030年代の実現を見込むというから、夢物語ではないのだろう▼息をのみながらアポロ11号の月面着陸に見入ってから半世紀。いまや月旅行も現実になろうかという時代である。その距離約38万4千キロという未知なる天体に、今は手が届く。まさに隔世の感である▼わが惑星の来し方に目をやれば、山を削り、海を埋めて人は利便を追ってきた。その果ての温暖化には手を打てぬまま、開発の視線はその外へ向く。神話や俗説をまとう“夢の国”の槌音(つちおと)。平穏なウサギの暮らしを脅かさなければ良いが。