天鐘(9月4日)

人種差別をめぐる事件が報じられるたびに思い出す映画がある。2013年の『42~世界を変えた男~』。黒人初のメジャーリーガーとされるジャッキー・ロビンソンの物語だ▼心に残るシーンがある。1940年代、メジャーは白人のものだった。能力を買われて.....
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 人種差別をめぐる事件が報じられるたびに思い出す映画がある。2013年の『42~世界を変えた男~』。黒人初のメジャーリーガーとされるジャッキー・ロビンソンの物語だ▼心に残るシーンがある。1940年代、メジャーは白人のものだった。能力を買われて誘われたロビンソンだったが、まずチームのゼネラルマネジャー(GM)に釘(くぎ)を刺される。どんな嫌がらせにも我慢しろ、と▼人種差別は社会問題との意識すらなかったころだ。「やり返す勇気もない“弱虫”でいろと?」。反論するロビンソンにGMは首を振る。「違う。必要なのは、やり返さない勇気を持つことだ」▼差別と戦いながら活躍する主人公。その姿に周りの意識も変わっていく。物語は信念を貫いた黒人選手の勇気を描きながら、理不尽な攻撃に声すら上げられなかったスポーツ選手の暗黒の時代も浮かび上がらせる▼警官による黒人男性銃撃事件に、テニスの大坂なおみ選手がいち早く声明を出した。プロバスケットや大リーグも試合を延期して抗議した。今や差別には全米のスポーツ界が拳を振り上げる。確かな時の移ろいには違いない▼けれども、それは差別がいまだになくならないことの裏返しだ。悲劇はまた繰り返された。かの英雄を敬い、その背番号「42」を大リーグの永久欠番にする米国。尊い魂はどこへ。世界が変わったのは映画の中だけの話なのか。