天鐘(8月29日)

13年前のことである。自民党役員会が終わると、思わず両手で顔を覆った。直前の参院本会議。所信表明演説で原稿の一部を読み飛ばしてしまった。隣の麻生太郎幹事長(当時)が慰める▼「(祖父の)吉田茂は演説を2ページも飛ばした」。それでも、ずっと無言.....
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 13年前のことである。自民党役員会が終わると、思わず両手で顔を覆った。直前の参院本会議。所信表明演説で原稿の一部を読み飛ばしてしまった。隣の麻生太郎幹事長(当時)が慰める▼「(祖父の)吉田茂は演説を2ページも飛ばした」。それでも、ずっと無言である。第1次政権後半の安倍晋三首相の体調は最悪だった。その直後、麻生氏に告げる。「首相を辞したい」▼今回も病状は予想通り芳しくなかった。「あのとき」と同様、再び退場する安倍首相である。「国民の負託に自信を持って応えられない」と、無念さがにじむ会見だった。同時に、少し安堵(あんど)の顔にも見えたのは気のせいだったろうか▼永田町では「風邪はがん、入院は危篤」などと言われる。病気の噂だけで政治生命が脅かされることもあるからだ。得てして先生たちの病状は伏せられがちである。だがそれは国民を欺くことにもなる▼前回の辞任では持病には触れず「職場放棄」と批判された。昨日の会見で詳細に説明した経過には、自らの覚悟ものぞいた。数々の「悲願」は道半ば。連続在職日数で歴代最長になったリーダーの最後はあっけなかった▼政治の仕事は過酷で厳しい。逆に、それにどれだけ耐えられるかが評価にもなる。病と共に走ってきた。けれども、多くの課題も残して去って行く。辞任は一人で決めたという。1強の裏側に「孤独」の文字が透けて見える。