安倍晋三首相が持病である潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任する意向を表明した。2012年末の第2次政権発足から約7年8カ月。通算在職日数が歴代最長を更新し続けていたのに加え、今月24日には大叔父である佐藤栄作元首相の連続在職日数記録を塗り替えた直後だった。[br] 首相は記者会見で、新型コロナウイルス感染症の検査体制拡充など冬に向けた対策取りまとめを強調した上で「新体制に移行するのであれば、このタイミングしかないと考えた」述べた。やり残した課題としては北朝鮮による拉致問題、ロシアとの平和条約締結、憲法改正を挙げ「痛恨の極みだ」と表明した。[br] 旧民主党政権の“失敗”を受け誕生した第2次政権以降、機密を漏らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法や、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法など、国論が二分する法律を強引に成立させてきた。一方で、地方創生、働き方改革などのスローガンを次々と打ち出し世論の取り込みに成功。首相在任中、国政選挙では5連勝を果たした。[br] 特に、アベノミクスによって雇用を確保するなど景気回復への期待感を高めた。しかし、今年初めからのコロナ感染症の拡大により経済情勢が悪化した上、政府のコロナ対応が後手に回るなどで批判が強まっていたのも間違いない。[br] 政権不祥事も少なくなかった。森友、加計学園や首相主催の「桜を見る会」では、首相に近い関係者を優遇したとの疑惑が指摘されたが、野党の追及不足に助けられた側面もあった。[br] 悲願としていた憲法改正には支持が広がらず、拉致問題や北方領土問題など懸案解決への見通しは立たない状況だった。自ら招致し、来年に延期された東京五輪・パラリンピックもコロナの感染状況によっては開催が微妙で、首相は残り任期の1年余を全うするだけの気力が低下していたのではないだろうか。[br] 首相の辞任表明で、9月にも自民党総裁選が行われる。くしくも同月中旬には野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党の多くが参加する合流新党が結成される見通しで、あえてその時期に総裁選をぶつけたという印象すら受ける。[br] 総裁選には、意欲を示す石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長のほか、菅義偉官房長官、河野太郎防衛相らの出馬も取り沙汰される。そこでは「安倍1強」政治の総括が必要だ。負の遺産に関する議論も徹底的に行い、国民に開かれた選挙戦となるよう望みたい。