公選法違反(買収)の罪に問われている前法相の衆院議員河井克行被告と妻の参院議員案里被告は、初公判で現金供与は認めたが買収目的を否認、無罪を主張した。議員夫妻が大規模な買収事件とする起訴事実を全面的に争う以上、刑事裁判の原則である、客観的な証拠に基づく実体的真実の解明が望まれる。[br] 昨年7月の参院選で案里議員は広島選挙区に立候補し、当選した。起訴状によると、克行議員は同年3~8月、案里議員への票のとりまとめなどを依頼し、地元の県議や市議ら100人に計2900万円余を配った。案里議員は、うち5人に対する計170万円の配布について共謀したとされる。[br] 初公判で克行議員は「投票や票のとりまとめの趣旨で供与したものではない」、案里議員も「夫と共謀したことはなく、当選目的で現金を渡したことはない」と起訴内容を否認した。[br] 現金供与は「統一地方選に立候補していた本人への陣中見舞いや当選祝いだった」としている。[br] 裁判のポイントは現金の趣旨である。国会議員側から地方議員側への資金提供は、政治団体の寄付として当選祝いなどの形で一般的に行われており、違法ではない。その場合、政治資金規正法の規定で寄付として政治資金収支報告書に記載し、領収書を添付しなければならない。[br] 審理では資金を提供した時のやりとりが何よりも問題になる。「票のとりまとめ」に関する言動があったのか。現金を受け取った県議ら約120人が証人として出廷する見通しだ。公開の法廷で現金授受の場面のやりとりが詳細に証言されることになる。領収書の有無も証拠の柱となる。[br] これらの証言や物証を積み重ねることで、誰もが納得できる「実体的真実」が得られよう。そのためには検察の説得力のある立証活動と弁護人側の真摯(しんし)な弁護活動が欠かせない。[br] この事件では地元議員は一人も起訴されていない。弁護側は、検察が有利な供述を得るため刑事処分を見送る違法な取引をしたとして公判を打ち切る公訴棄却を求めた。[br] 起訴するかどうかは、法をつかさどる法務省のトップだった国会議員の違法行為追及を優先した検察の裁量とみることもできるが、裏取引なら別問題だ。これも地元議員らへの証人尋問の中で明らかになるだろう。[br] 捜査した東京地検特捜部が100人に裏取引を持ちかけていたとすれば、隠し通せるはずがない。公正な審理が必要だ。