天鐘(8月16日)

この夏、何十年ぶりかでセミの抜け殻を見た。木の葉っぱの裏に静かにしがみついている。直前までこの中に命が宿っていたかと思うと、なんだか不思議な気持ちになってくる▼セミの抜け殻は幸運の象徴といわれる。羽化の間は無防備なため、よく鳥などの外敵に襲.....
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 この夏、何十年ぶりかでセミの抜け殻を見た。木の葉っぱの裏に静かにしがみついている。直前までこの中に命が宿っていたかと思うと、なんだか不思議な気持ちになってくる▼セミの抜け殻は幸運の象徴といわれる。羽化の間は無防備なため、よく鳥などの外敵に襲われる。危険をくぐり抜けて生き延びられたことは縁起が良い。そう思って聞くと、あのやかましいセミ時雨もどこかいとおしい▼お盆休暇も今日で終わり、明日からまた仕事という方も多かろう。今回の休みはいつも以上に自宅でセミの声を聞く時間が多かった気がする。遠出を控え、部屋にこもった数日間である▼コロナの影響で多くの人が帰省をあきらめた。楽しみにしていた同窓会や成人式がなくなった方もいよう。飲食店では「県外の方は控えて」の張り紙も。いつもなら優しいお盆の表情は、今年ばかりはちょっぴり陰る▼墓参りでもマスクが目立った。もっとも、実際のお参りは断念、「代行」や「バーチャル」で手を合わせた家族もいたらしい。墓参の風景さえ変える感染症。“特別な夏”に、ご先祖様もさぞ驚いたことだろう▼お盆が過ぎれば、暦は急ぎ足。暑さはまだ続きそうだが、気がつけば夏の音色は、樹上のセミ時雨から草むらの虫たちの合唱へと移りつつある。世の平穏はいつのことになるのだろう。役目を終えた、物言わぬ抜け殻にそっと尋ねてみる。