時評(8月5日)

広島市は6日の原爆の日、被爆75年の節目を迎える。松井一実市長は平和記念式典で、政府に核兵器禁止条約の締約国となるよう求める平和宣言を行う予定だ。 原爆投下直後、広島に降った黒い雨。それに含まれた放射性物質による被害に今も苦しむ多くの人々が.....
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 広島市は6日の原爆の日、被爆75年の節目を迎える。松井一実市長は平和記念式典で、政府に核兵器禁止条約の締約国となるよう求める平和宣言を行う予定だ。[br] 原爆投下直後、広島に降った黒い雨。それに含まれた放射性物質による被害に今も苦しむ多くの人々がいる。松井市長はその救済に向け、政府が援護対象とする「降雨地域」を拡大するよう政治判断を求めるという。[br] 黒い雨について広島地裁は先月、国の援護対象区域よりも広い範囲に降ったと認め、県と市に対して原告全員への被爆者健康手帳の交付を命じる初めての判決を言い渡した。これが被害者救済の大きな契機となることを期待したい。[br] 原爆被害を訴える人々は高齢化している。政府は認定・給付の基準を再検討し、過去の経緯にとらわれず、一刻も早い救済を実現してほしい。[br] 広島、長崎の被爆者から国や県、市を相手に起こされた各種の集団訴訟で、裁判所は少しずつ判断の修正を重ねてきた。[br] 長崎の第1陣訴訟で最高裁は2017年、枠組みを緩め、原告1人に救済の可能性を認めた。さらに今年2月の最高裁判決は原爆投下時の居住区域による線引きを維持しながらも、区域外の原告でもその症状を考慮して救済の可能性を残す初判断をした。黒い雨判決は、この流れの最先端にある。ようやく司法が根底から動いた。[br] 国の判断枠組みは原爆投下直後の混乱期に少人数で行った調査を基に、地理的に線引きし認定している。しかし地図上の線引きに固執し過ぎではないか。[br] 医学的・科学的に見ると地区の線引きには不合理性が目立つ。その結果、原告の病状から被ばくを認定する方向へ司法が修正を迫られている。重視されるのは放射線に起因する病気を持つことで、今必要なのは新たな所見に立った再検討だ。[br] 厚生労働省は最近、被爆者の「積極的救済」を強く打ち出すようになった。その方向で、抜本的な基準見直しによる救済に取り組んでほしい。[br] 広島の式典会場には原爆資料館がある。館内には白いしっくいの壁が保存され、黒い雨が流れた太い跡が滝のように多数残る。この雨が降り注ぐ光景は想像するだけでも恐ろしい。このような悲惨な事態を二度と招いてはならない。[br] 広島に続いて原爆が投下された長崎でも9日、平和祈念式典が行われる。平和の誓い、核廃絶の大切さを改めて考えたい。