欧州連合(EU)首脳会議が新型コロナウイルスで打撃を受けた欧州経済を再建するため総額7500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」を創設することで合意した。基金はEU史上初めてとなる事実上の27加盟国の債務共有によるもので、「歴史的な変更であり、欧州にとって歴史的な一歩だ」(マクロン・フランス大統領)。[br] 英国のEU離脱の衝撃に続き、コロナ禍によるEU発足以来最大の試練を前に、加盟国は互いの利害対立を乗り越えて結束し、新たにEU統合を支持し連帯を強化する意向を鮮明にした。EU指導部と加盟国の努力と決断を高く評価し、歓迎したい。[br] 深刻な経済苦境に直面するイタリアなどを支援するため、基金はEUの行政府、欧州委員会が事実上の共同債を大量発行して資金を市場から調達し、3900億ユーロを返済不要の補助金として加盟国に給付し、3600億ユーロを融資する。今後7年間のEU予算に組み込まれる。[br] 2010年代のギリシャ債務危機と統一通貨ユーロ危機に苦しんだ欧州は、「通貨は統合されたが財政は各国バラバラ」という構造的な欠陥を克服するために、「銀行同盟」創設など財政統合へ向けた取り組みを模索してきたが、経済の南北格差が障害となっていた。[br] 今回も、補助金支給の救済を切望する南欧のイタリアやスペインなどと、全て融資にするべきだと緊縮策を主張するオランダやオーストリアなどが対立し議論が難航した。[br] しかしEUが苦境にある加盟国を救えなければ、その存在意義が問われる。イタリアなどで中国の介入や反EUの極右が勢力を伸ばす恐れもあった。[br] 打開の決め手となったのは、ドイツのメルケル首相が自国の緊縮政策から欧州の連帯と結束の優先へと政策転換したことだ。ドイツとフランスが枢軸となりオランダなどを説得した。ミシェルEU大統領もオランダなどの主張を一部取り入れ、返済不要分を当初の5千億ユーロから3900億ユーロに削減した。粘り強い交渉の成果を評価したい。[br] 中でもこれまでEU、ユーロ圏の弱小国は緊縮策を条件としなければEUから融資を得られなかったが、今回の復興基金の合意は「その重要なタブーを破った」(英紙)とも言える。「長い時間をかけてやっと実現したが、コロナ危機は欧州が本物の統合へ向けて躍進するのを許したようだ」(同)とすれば、大きな歴史的な意味を持つ。歓迎すべき前進だろう。