本年度の最低賃金(時給)について厚生労働省の審議会が「引き上げ額の目安を示すことは困難」だとして、「現行水準維持が適当」との答申をまとめた。新型コロナウイルスの感染拡大で、厳しい経営環境に置かれている中小企業などを配慮したためだ。[br] 最低賃金は都道府県ごとに定めることになっており、同答申を受けて、地方の審議会での議論が本格化する。最低賃金水準で働いている非正規労働者の処遇改善に向け、中長期的視点に立ち、一歩でも前進を目指す議論が求められる。[br] 厚労省の審議会で、労働者側は「個人消費の底上げで経済の好循環が期待できる」などと主張、賃上げ継続を求めたのに対し、経営者側はコロナ不況を乗り切るため「賃上げより雇用維持」を訴えた。激しい攻防の末、経営者寄りの判断で決着した。[br] コロナ禍による解雇や雇い止めをいかに防ぐかは政府にとっても喫緊の課題だけに、中小・零細企業の経営状況を考慮すればやむを得ない面もある。ただ、パートや派遣などの非正規雇用者の待遇改善は日本社会にとっても重要な問題だ。地方の審議会では地域事情も踏まえ、正社員との格差是正に向けしっかり審議がなされるべきだ。[br] 地域間格差是正も長年のテーマ。現在の最低賃金の全国平均は901円で、最も高い東京都(1013円)と、最も低い東北や九州などの15県(790円)の差は223円もある。大都市への人材流出の一因とも指摘され、地方創生政策の観点からも格差縮小が求められている。[br] 答申では、各都道府県での審議にあたって「地域の経済・雇用の実態を見極め、地域間格差の縮小を求める意見も勘案しつつ、適切な審議が行われることを希望」とした。厚労省の審議会で引き上げ額の目安が示されなくても、地方独自で引き上げたケースは過去に何度かある。2004年度はその一例で、44都道府県が1~2円の引き上げに踏み切った。[br] 最低賃金は昨年度までの4年間、人手不足を背景に年率3%以上引き上げられてきた。数年後には全国平均千円台乗せの可能性も指摘されていたが、コロナ禍がこうした流れを断ち切った格好だ。[br] コロナ感染第2波の懸念が高まる中、企業が内部に抱える「失業予備軍」は高水準にある。雇用維持が当面の最重要課題なのは確かだが、賃上げの流れを止めてはならない。賃上げしやすい環境整備に向け、行政による支援策の検討も求められよう。