家族間で深刻な紛争になりがちなのが故人の不動産や預貯金などの遺産相続だ。トラブル防止に役立てるため、故人手書きの自筆証書方式で作られた遺言書を法務局が保管する新制度が全国で実施された。[br] 本人が法務局に行って申請書を提出し、本籍が記載された住民票や財産目録など必要書類とともに遺言書を預ければよい。ただし運転免許証などで本人確認も必要だ。[br] 申請書用紙は法務省ホームページで入手でき、手数料は3900円。早くも問題点が指摘されてはいるものの、運用を改善し、上手に利点を活用したい。[br] 遺言書保管制度の効果は3点指摘できる。まず紛失などのリスクが少なくなる。これまで遺言書は本人が仏壇や金庫などに隠していたケースが多く、それが紛失、廃棄、改ざんなどの原因になったが、それを防げる。 次に、法務局のチェックが入るので日付の未記入など形式不備による無効が避けられる。しかし内容は相談できず、有効性の保証にはならない。[br] 3点目は、家裁で裁判官が遺言書の内容などを確認する検認手続きが不要になったことだ。検認では出席者が故人の筆跡を否定する場面もあるが、法務局が確認済みなら文句も出ない。[br] 新制度では原本が原則50年間保存されるだけでなく、画像データも残るので、相続人は手数料を払えば、遺言書の写しを入手できる。その際、他の相続人にも法務局から通知が送られる。共通の情報を土台にした相続協議が可能になる。[br] ただ、抜け道も懸念されている。相続人の誰よりも先に手続きをすれば不動産も預貯金も自分に有利な形にできる抜け駆けが起きかねない。遺言書を無視して土地所有権を故人の単独所有から相続人らの共有に名義変更し、まだ確定していない自分の持ち分を先に不動産業者へ売却して換金してしまう横取りがあり得るという。[br] この場合、遺言書に遺言執行者名を書いておけば、その了承なしに処分はできない。こうした抜け道封じの工夫が求められる。権利を守るための制度改正を逆効果にしてはならない。[br] 相続のルールは2018年の民法(相続編)改正で大きく変わり、昨年からパソコンで財産目録を作れるようになるなど、段階的に実施されてきた。保管制度は一連の流れの総仕上げになる。新制度を使えばトラブルは抑えられ、遺産分割も円滑に進む。遺言書の利用は進むだろうが、欠点の放置で家族が苦しむ不幸だけは回避したい。