ボルトン前米大統領補佐官が出版した回顧録は「大統領の資質に欠ける衝動的な指導者」というトランプ大統領の実像を赤裸々に暴露した。[br] 大統領の最優先課題が再選であり、そのために外交を利用し、時には交渉で同盟国をどう喝することも辞さない姿は衝撃的だ。内容が全て真実かは実証できないが、日本政府は米政権の外交と政策を吟味し、一歩引いて構えることが必要だ。[br] ボルトン氏は一昨年4月に補佐官に就任し、昨年9月に解任された。国連大使も務めたネオコン(新保守主義)の中心人物。対北朝鮮やイラン強硬派として知られ、外交政策で大統領と対立した。[br] 特筆すべきは同氏が務めた国家安全保障問題担当の補佐官という職務だ。世界中の安保、外交など重大な問題をいつでも大統領に報告、助言する立場にある側近中の側近だ。それだけに暴露された内容は深刻である。[br] 回顧録で最も注目されるのは大統領にとって「唯一大事なのは再選すること」という指摘だろう。大統領は「政権運営に無知」で「個人的利益と国益の区別がつかない一貫性なき人物」と描写されている。同氏は「再選されれば、国家にとって危険」と再選阻止を訴えている。[br] 大統領が再選目的のために外交を利用する模様が詳細に記されているのは驚愕(きょうがく)的だ。前回の選挙でロシアと結託したとされる「ロシア疑惑」や、弾劾裁判に至った「ウクライナ疑惑」はこうした手法と同じ線上にある。[br] 例えば、大統領は昨年6月の米中首脳会談で習近平国家主席に、米国の農産物を購入して再選を支援するよう懇願した。だが、トランプ政権は表面的には中国の不公正貿易を非難、「競争国家」として対決姿勢を見せており、水面下で画策したこととのギャップが大きい。[br] 一昨年6月の初の米朝首脳会談では北朝鮮の非核化に向けた共同声明が発表されたが、大統領は「宣伝のためであり、中身がなくても署名する」と話し、また昨年の板門店での会談は「メディアの注目を集めるため」だったという。[br] ボルトン氏は昨年7月の訪日で、在日米軍駐留経費負担の4倍以上への増額を求めたが、大統領は米軍の撤収カードで脅す交渉術さえ伝授した。[br] 回顧録は大統領が安倍晋三首相と親しい関係にあると再三指摘している。だが、大統領の頭にあるのは再選のため有利になる「取引」だ。米国とどう付き合っていくのかは、秋の大統領選の結果を見極める必要がある。