天鐘(6月29日)

ナポレオンの妻ジョセフィーヌは大のバラ好きで、城の庭園を250種ものバラで埋め尽くし、園芸家を抱えて品種改良に没頭した。だが、彼女が最も見たかった「青いバラ」はついに咲かせることができなかった▼故に青いバラの花言葉は「不可能」。欧州のほぼ全.....
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 ナポレオンの妻ジョセフィーヌは大のバラ好きで、城の庭園を250種ものバラで埋め尽くし、園芸家を抱えて品種改良に没頭した。だが、彼女が最も見たかった「青いバラ」はついに咲かせることができなかった▼故に青いバラの花言葉は「不可能」。欧州のほぼ全土を制圧、「余の辞書に不可能の文字はない」と順風満帆の皇帝ナポレオンだったが、皮肉にも最愛の妻が望む「青いバラ」を贈ることだけは不可能だった▼なのに2000年、当時の木村守男青森県知事が「青いバラの開発」を突如宣言。しかも目指すは「澄み渡る秋空の青」と気高く、県グリーンバイオセンターの開発チーム8人は手探りで難事業に突入していった▼だが、バラには元々青の遺伝子はない。そこで紺碧(こんぺき)の花を咲かせるチョウマメに“秋空”を託し、その青をバラに導入する「遺伝子組み換え」に辿(たど)り着いた時だった▼04年の明日。サントリーが「青いバラ」を発表、世界を驚かせた。パンジーの青を遺伝子組み換えで転写する同じ技術だ。隣のコースを走っていた県は振り切られ、花言葉「夢叶う」の栄誉は大手企業が手にした▼元スタッフで県農林総合研究所花き園芸部長の加藤直幹さん(50)は「最後は打ち拉(ひし)がれたが、よくあそこまで。青空の青ならうちの方が…」と今でも悔しげ。“下町のバイオ”が大企業の一大事業に挑み、肉薄した歴史の一コマだった。