天鐘(6月23日)

ある殿様の用人、三太夫の元に「国元にて御殿姉上様、御死去」の文が届いた。急ぎ殿に知らせると「いつ?」と問われ、改めて読み直すと「御殿」ではなく「御貴殿(、、)」だった▼立腹した殿は切腹を命ずる。覚悟を決めた三太夫は短刀を腹に押し込むが斬れな.....
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 ある殿様の用人、三太夫の元に「国元にて御殿姉上様、御死去」の文が届いた。急ぎ殿に知らせると「いつ?」と問われ、改めて読み直すと「御殿」ではなく「御貴殿(、、)」だった▼立腹した殿は切腹を命ずる。覚悟を決めた三太夫は短刀を腹に押し込むが斬れない。よく見ると扇子。そこへ殿が駆け込み「許せ、三太夫。切腹には及ばん。余に姉はいなかった」。ご存じ落語『松曳(ひ)き』だ▼世が世なら一文字間違えば切腹の沙汰も下る。だが古今東西、粗忽(そこつ)者は後を絶たない。慌て者だがお互い悪意がないなら落語にもなるが、過ちをなかった事にしたり、用人のせいにしたりする“殿”なら笑えない▼白人警官による黒人男性暴行死事件を受け、人種差別に抗議行動が続く米国。「奴隷解放記念日」の19日は、各地で集会やデモが行われ、ワシントンでは地元NBAウィザーズの八村塁ら主力選手も参加した▼連邦国全土で奴隷制が禁止された歴史的なこの日に、トランプ大統領陣営は選挙集会をぶつけていた。事件があってさすがに翌日に回したが、新聞のインタビューに大統領は「誰も聞いた事がなかった」と嘯(うそぶ)いた▼「ねっ」と側近に念を押すと「毎年、声明を出しています」の答え。大慌てで「本当か? 我々が…。それは良かった」。あんな事件の後では笑えない。落語の代わりに、ボルトン前補佐官が傲慢(ごうまん)不遜(ふそん)な大統領の暴露本を出版するという。