天鐘(6月5日)

こんな話がある。かつて米国の大学が、ひとつの実験として労働者を募っている複数の会社宛てに、多くの架空の履歴書を送ってみた。かの国では履歴書に顔写真を貼る必要はない▼全体の半数に白人にありがちな名前を記載した。残り半分には黒人に多いとされる名.....
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 こんな話がある。かつて米国の大学が、ひとつの実験として労働者を募っている複数の会社宛てに、多くの架空の履歴書を送ってみた。かの国では履歴書に顔写真を貼る必要はない▼全体の半数に白人にありがちな名前を記載した。残り半分には黒人に多いとされる名を書いた。戻ってきた返事は、白人と思われる者への面接通知が多く、それは黒人の1・5倍に上ったという▼大いなる自由と平等を米国はうたう。だが、その素晴らしき理念を映す泉の底には、依然として「差別」という沈殿物が広がっているということだろう。ひとたび攪拌(かくはん)されれば舞い上がり、清らかな水もたちまち黒く濁らせる▼白人の警官に首を押さえられた黒人男性の姿は衝撃的だった。「息ができない」の言葉に集結した抗議のデモは全米に広がった。各地で吹き荒れる略奪や放火の嵐。これまでも何度か見た悲惨な泥水の光景である▼本来なら融和を呼びかけるべきトランプ大統領がこれに油を注く。何でも力で押さえ込もうとするのが、この人のやり方だ。世界のリーダーと言われた大国の姿は遠く、今は全世界が「息ができない」思いでいる▼感染症が広がる中でも、黒人はマスクを着けようとしないらしい。口を覆えば犯罪者と間違われ、銃口を向けられる恐れがあるためだ。貧困、偏見、不平等…。この国の奥底で、ずっとよどみ続ける“澱(おり)”の実態である。