人気女性プロレスラーの木村花さんが22歳で亡くなった。出演したテレビ番組を巡り、会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を浴び、自殺したとみられる。インターネットでの匿名の攻撃による被害は年々深刻化しており、問題のある書き込みの削除や発信者を特定する制度を改革すべきだ。ネットを無法地帯にしてはならない。[br] フジテレビ系の番組「テラスハウス」に出演していた木村さんに、SNSで「お前が早くいなくなればみんな幸せ」「二度とテレビに出ないで」などと匿名の書き込みが集中。木村さんは「毎日100件近く率直な意見。傷ついたのは否定できなかったから」とツイートしていた。[br] ネットの誹謗中傷で「夜も眠れない」「外出できない」などといった被害が多発している。総務省の違法・有害情報相談センターに寄せられた相談は2019年度、5198件。10年度の約4倍に増えた。[br] 被害の防止、回復には発信者を突き止め、やめさせなければならない。だが、その手続きに裁判所への請求が必要など時間と費用がかかる。現状では容易ではない。[br] 木村さん死亡が明らかになった直後、高市早苗総務相は発信者の特定をしやすくする制度改正の検討を急ぐ意向を示した。ただ安易に情報開示すれば乱用される恐れもあり、表現の自由、通信の秘密保護と被害救済のバランスが必要だ。[br] SNSはテレビの番組作りにも関係する。「テラスハウス」は、台本なしで人々の生活を追う「リアリティーショー」といわれる番組だ。男女6人が生活するシェアハウスが舞台だった。[br] 木村さんは、洗濯機に放置していたプロレス用衣装を同居男性が乾燥し、縮ませたことに怒った。この場面の公開後、視聴者から匿名の罵詈(ばり)雑言が続いた。[br] この種の番組では注目度を高めるため「SNSを絡めた盛り上がり」が不可欠だといわれる。その盛り上げ方に無理はなかったのか。[br] 海外でもリアリティーショーは人気が高い一方で、英紙は昨年、番組に絡み世界で38人が死亡していると報じている。自殺者が相次いでいるのだ。[br] 木村さん死亡について、フジテレビ社長は「(出演者の心の救済などに)私どもの認識が十分ではなかった」と話し、番組を検証するという。出演者を追い詰めた原因を解明し、公表すべきだ。今やネット空間は人々の生活と切り離せなくなった。それが凶器にならないよう不断のチェックが必要である。