天鐘(5月19日)

「悪法もまた法なり」とは古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉だと教わった。国の神を信奉せず、若者を堕落せしめた廉(かど)で民衆裁判にかけられ、死刑が宣告された。刑執行の時、こう述べて毒杯を呷(あお)ったという▼弟子プラトンの対話篇『ソクラテ.....
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 「悪法もまた法なり」とは古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉だと教わった。国の神を信奉せず、若者を堕落せしめた廉(かど)で民衆裁判にかけられ、死刑が宣告された。刑執行の時、こう述べて毒杯を呷(あお)ったという▼弟子プラトンの対話篇『ソクラテスの弁明』『パイドン』には、弟子が獄中の彼を訪ね、脱獄を勧めるが拒否。「悪法も…」と言って毒を飲み干し息絶えた―と記されているものと思っていたが、違うらしい▼直訳で「従う。それ以外のことはしない」とは述べたが、「悪法も…」とは一言も言っていない。哲学研究者の加来彰俊(かくあきとし)氏も「彼がそんなことを言うはずはない」(『ソクラテスはなぜ死んだのか』)と一蹴する▼死刑を免れることも脱獄もできたのに、「冥土には賢い神々が待っている」と進んで死を受け入れた。「悪法も…」の解釈には無理があり、どうやら法治主義を徹底したいがため“国産”の意訳だったようだ▼例え欠陥法案でも立法化されれば簡単に逆らえない。コロナ禍の混乱に乗じて提案された検察庁法改正案。成立間近だったが不意に巻き起こった“ツイッターデモ”の逆風で、今国会での成立が見送られるという▼検察人事に内閣が恣意(しい)的に介入できる“魔法の杖(つえ)”。振り回せば民主主義の危機を招く。著名人のSNSと検察OBの直訴で官邸も竦(すく)んだようだ。悪法の芽は見付けたら根っ子から摘むに限る。