原子力規制委員会は本年度、原子力施設を検査する新たな制度の本格運用を始めた。今後、規制当局は独自の視点で問題点を見つけ出す力量を問われ、事業者は自主的に安全性を追求する姿勢が求められる。新制度の成否が、原子力安全の鍵を握ると言える。[br] 東京電力福島第1原発事故以前、規制当局と事業者の関係は、生徒の間違った答案を教師が仕上げていくという意味で「家庭教師と生徒」とやゆされた。[br] 原発事故を経て、旧組織は廃止され、独立性の高い「3条委員会」として規制委が2012年に発足。その下でつくられた新検査制度は、旧体制からの脱却の象徴だ。安全審査に時間を割かれるなどして導入できずにいたが、ようやく準備が整いスタートした。[br] 新制度では、事前に検査対象を通知して事業者が用意した資料などを検査官が確認する手順だった手法から、「いつでも抜き打ち」(規制委関係者)の形に改められた。検査官は時間にとらわれず自由に施設へ足を運び、自らの視点で管理状況を確かめる。[br] 原子力規制庁青森事務所の前川之則地域原子力規制統括調整官は「検査官は重要な部分を捉え、見分ける能力がさらに求められる」と規制側がスキルアップする重要性を強調する。[br] 多岐に分かれていた検査を一本化し、検査対象を事業者の全ての保安活動に拡大したのも特徴。検査結果を集約した上で、問題がある施設には専門チームを派遣する。[br] 一方、施設の安全を維持する責任が事業者にあることも明確化された。規制側の助言を待つことなく、事業者自らに安全を追求させるためだ。[br] 第1原発事故の際、隣の第2原発の所長だった日本原燃の増田尚宏社長は「(事故前は)規制要求を満足していればいいという考えがあった」と省みる。[br] 「世界一厳しい」と言われる規制委の安全審査が始まって数年がたつ。だが、今でも事業者からは業界内での横並びを意識した発言や、不完全な書類の提出を繰り返すなどの“甘さ”が見られる。自主的に問題を改善していく取り組みが事業者に根付いたとは言い難いのが現状だ。[br] 「事業者を子ども扱いではなく大人扱い」(更田氏)する新制度の下、事業者が自発的に安全性を向上していけるのか。増田社長は「できるかどうかではなく、やらなければならない」と自戒を込めて語る。