内閣府の有識者会議が日本海溝・千島海溝沿いを震源とした地震と、それに伴う津波の想定を公表した。青森県や太平洋沿岸などの県内市町村は、対策を迫られている。[br] 想定されるマグニチュード(M)は9クラス。青森、岩手両県太平洋側の広い範囲で6強の震度を観測するとした。津波の高さは八戸市が青森県内で最も高い26・1メートル。佐井村を除く下北地域でも10メートルを超える。[br] 2011年の東日本大震災を受け、青森県は12~15年に最大クラスの津波による浸水予測図をまとめた。太平洋沿岸では三陸沖北部から中部(青森県沖~宮城県北部沖)を震源域として津波の高さをおいらせ町24メートル、八戸市23メートル、階上町20メートルなどと推計した。[br] 浸水面積は、八戸市で大震災時(9・0平方キロメートル)の4倍以上に当たる約38・9平方キロメートルだった。今回、有識者会議が示した津波はさらに高く、襲われた場合、浸水域の拡大は避けられない。風間浦村も当時の予測に基づいて庁舎の移転計画を進めてきたが、移転先の旧村立易国間小敷地も今回想定された浸水範囲に含まれることが判明した。計画の見直しは必至だ。[br] 青森県は本年度内に改めて津波浸水の状況をシミュレーションし、市町村はそれに基づいて避難計画を見直す方向だ。有識者会議は、発生が「切迫した状況」と説明している。各自治体は危機意識を持ち、被害を最小限に抑え、住民の命を守るための取り組みを進めてほしい。[br] 有識者会議は地震、津波は自然現象で不確実性を伴うとし、今回の推計結果を「超えることもあり得る」と指摘。「住民の避難を軸に総合的に対応する必要がある」と呼び掛け、「逃げること」に重きを置いた対策を求めている。[br] 逃げる大切さは震災の教訓の一つだ。どのルートで、どこに避難するか。今回の想定を契機に、改めて避難行動を見つめ直す必要がある。[br] 一方、今回は岩手県の浸水想定公表が見送られた。満潮時で堤防などが壊れる「最悪のケース」で推計したことに「住民の不安をあおる」と県や沿岸自治体から不満が上がったためだ。[br] 一律公表できなかったことで弊害はないか。住民の命を守るための津波対策に青森、岩手の間で温度差が出る事態は好ましくない。「震災後に整備されたハードの機能を考慮した想定」(野田村)などを求める自治体に対し、国は丁寧な説明を尽くし、理解が得られる形で想定を示すべきだ。