日本国憲法が施行から73年を迎えた。[br] 任期中の憲法改正に執念を燃やし続ける安倍晋三首相は2020年、つまり今年中の憲法改正を目指すと再三明言してきた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により全国に緊急事態宣言が発出され、不自由な市民生活を強いられる中、「憲法改正どころではない」というのが大方の国民感情だろう。[br] そんな中でも、自民党からはコロナ感染拡大を逆手に、憲法改正に絡めた緊急事態対応の議論を呼び掛ける声が上がる。安倍首相も「国家や国民がどのような役割を果たして国難を乗り越えていくべきかを、憲法にどのように位置づけるかは、極めて重く大切な課題だ」として、改正論議の必要性を強調した。[br] 自民党がまとめた改憲案には大規模災害を想定して、国政選挙ができない場合の特例的な議員任期延長を明記した緊急事態条項の創設が盛り込まれている。同党は今回の危機を奇貨として実質的な改憲論議に野党側を引き込みたい思惑だ。[br] しかし野党側は、「自粛や営業停止によって生活が成り立たない方をどう支えるかが先決だ」「緊急事態条項を議論したからといって何かすぐ、できるようになるわけではない」とまともに取り合わない姿勢だ。今の国民感情から考えてもごく当然の反応だと言える。[br] 連立与党の公明党も否定的だ。山口那津男代表は、有事を想定した参院の緊急集会が憲法54条に規定されていることを指摘し、国会議員の任期と憲法の問題を絡めるのは飛躍しているとの考えを示した。自民党の岸田文雄政調会長でさえ、コロナ感染拡大と緊急事態条項の関連付けには慎重な姿勢を見せた。[br] 日本全土がコロナ感染の脅威にさらされる国家的非常時に直面している中で性急に改憲に突き進もうとすれば、将来に大きな禍根を残すことになりかねない。今が憲法改正論議の時ではないことは明らかだろう。[br] そもそも20年中の改正という首相の目標自体に無理があったと言わざるを得ない。与野党間の議論は進んでおらず、国民の理解も深まっていない。最新の共同通信世論調査では国会での改正論議を「急ぐ必要はない」との回答が63%に達した。[br] 憲法については、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という基本理念を堅持しながら、いかに今の時代に合った形にしていくのか。改正の是非も含めて、落ち着いた雰囲気の中で広く、冷静に国民的な議論を展開することが大前提となる。