天鐘(4月16日)

事件や事故、災害の被害者や被災者にとって、そのつらい体験の記憶は早く消し去りたいもの。あえてそれを語るのは、同じ悲劇を誰にも味わってほしくないという願いからだ▼先日の中央紙にタレント風見しんごさんの広告が載った。大切な命を守るためにお伝えし.....
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 事件や事故、災害の被害者や被災者にとって、そのつらい体験の記憶は早く消し去りたいもの。あえてそれを語るのは、同じ悲劇を誰にも味わってほしくないという願いからだ▼先日の中央紙にタレント風見しんごさんの広告が載った。大切な命を守るためにお伝えしたいことがあります―との直筆での訴えは親子での通学路の点検。新学期を迎えての交通安全の呼び掛けである▼風見さんの著書を過去に読んだ。13年前に娘を事故で亡くしている。車の下敷きになった姿に言葉を失った。失意の中でその悲しみを啓蒙(けいもう)活動の力に変える。泣きたい気持ちを笑顔で隠し、事故の悲惨さを講演で伝え続ける▼昨年の犠牲者は全国で3215人。ひところよりだいぶ減った。とはいえ全く事故のなかった日はあるまい。どこかで誰かが涙をこぼす。毎年恒例の声高ゆえ、多少のすり減りも気になる「事故撲滅」の掛け声である▼阪神大震災のころの、ある警察官の言葉が心にある。「地震で一度に何千人も亡くなれば皆が驚く。だが年間の事故の死者がそれ以上いても目を向けない」。日々積み重なる悲劇に気づいてという交通課員の思いだ▼突然絶たれてしまう日常。一つの事故は被害者も加害者も不幸にするという事実。「交通事故は当事者を選んではくれません…事故に遭ってからでは遅いのです」。パパの顔でほほえむ風見さんの言葉を胸に刻む。