天鐘(4月11日)

〈ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの―〉は、室生犀星(むろうさいせい)の詩『小景異情』。異郷にあって遠い故郷を偲(しの)ぶ懐郷の詩だと長年思い込んでいたが、違った。実は郷里、金沢で詠んだものだという▼詩人を志して上京する.....
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 〈ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの―〉は、室生犀星(むろうさいせい)の詩『小景異情』。異郷にあって遠い故郷を偲(しの)ぶ懐郷の詩だと長年思い込んでいたが、違った。実は郷里、金沢で詠んだものだという▼詩人を志して上京するが食い詰めて帰郷。だが、故郷でも受け入れられず、再び上京を決意した際の叙情詩だ。親友の萩原朔太郎も東京で詠んだものと誤認していた▼石川啄木も〈ふるさとの山に向ひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな〉と手放しで故郷を礼賛した。だが、こと新型コロナウイルス感染対策で故郷は“無防備な帰省”に毅然とした態度で臨んでいる▼就職や進学で旅立ったばかりなのに、首都圏に馴染(なじ)む間もなく緊急事態の宣言で半ば浮遊状態。迫り来るウイルスの恐怖に怯(おび)え、最後の頼るべき故郷も「移動は極力慎重に」と“異情”の風景に一変している▼まさに命の問題だ。首尾よく脱出しても故郷の目も険しい。基礎疾患を持つ高齢者には、不顕性感染が多い若者は“招かれざる客”に映る。青森県も帰省から2週間は不要不急の外出自粛を求めているが、本音は…▼観光感覚の“コロナ疎開”もあるとか。普段なら大歓迎だが今は違う。懐郷や家族愛などお構いなしのウイルスどもは家族を、地域を、国をも分断する。いつでも帰れる有り難い故郷であり続けたい。温かな故郷を壊されては堪らない。