安倍晋三首相は新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、特別措置法に基づく初の「緊急事態宣言」を発令した。[br] 対象となった東京など7都府県の都市部では感染者数が急増し、感染経路が不明なケースも増えていた。医療専門家や自治体、経済界から早期宣言への注文が相次いだ事態を受けた判断だろう。[br] 世界にまん延する新型コロナへの国内対応は、重大な局面を迎えた。われわれは今、爆発的患者急増による医療崩壊と経済破綻の危機に直面している。一人一人が冷静に行動し、互いの命と生活を守り抜きたい。[br] 宣言によって、罰則で外出を禁止する海外で行われているような都市封鎖(ロックダウン)が実施されるわけではない。鉄道や道路を止めたり、移動を禁止したりすることはできない。[br] しかし、国民が未曽有の事態に大きな不安を抱いていることは確か。安倍首相と関係知事は、宣言に基づく対策の目的と内容について丁寧に説明を重ね、不安解消に努める責任がある。[br] 宣言により関係知事は、これまで政治判断で行ってきた不要不急の外出の自粛要請を法的権限に基づいて行える。学校や映画館などの施設の使用停止・制限やイベント開催を控えることも要請できる。従わなければ、企業名の公表も可能になった。[br] 通勤や通学、食料や生活必需品の買い物など生活の維持に必要な外出は認められ、スーパーやコンビニは営業を続ける。買いだめや買い急ぎは不要であり、無用な混乱を招くだけであることを自覚して行動したい。[br] 特措法には、罰則による強制力を伴う私権制限の規定も盛り込まれた。臨時の医療施設を設けるための土地や建物を、所有者の同意がなくても使用できる。医薬品などの強制収用も可能だ。国民の自由と基本的人権に関わる部分は、抑制的に運用すべきだ。[br] 宣言による経済活動の一段の萎縮は避けられない見通しだ。外出やイベントの自粛で生じた経済的損失への補償は特措法に規定されていない。政府は事業規模108兆円と過去最大の緊急経済対策を決めたが、自粛要請と補償はセットで考え、具体的措置を講じる必要がある。[br] 与野党は、新型コロナ危機克服の一点では党派を超えて知恵を出し合い、国民に安心を与える対策をさらに打ち出すよう協力すべきだ。[br] 今回の政府の危機管理対応を後日に検証するため、正確な公文書を残すことが不可欠である点を指摘しておきたい。