天鐘(4月3日)

高校野球の熱心なファンだった作詞家の故・阿久悠さんに「コールドゲーム」という詩がある。32年前の甲子園。初出場で初戦で負けた岩手・高田高校を書いた▼土砂降りの中での試合はリードされた高田の最終回の攻撃を残して打ち切りに。最後まで戦えなかった.....
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 高校野球の熱心なファンだった作詞家の故・阿久悠さんに「コールドゲーム」という詩がある。32年前の甲子園。初出場で初戦で負けた岩手・高田高校を書いた▼土砂降りの中での試合はリードされた高田の最終回の攻撃を残して打ち切りに。最後まで戦えなかったチームに詩人は心を寄せた。〈きみたちは甲子園に1イニングの貸しがある/そして青空と太陽の貸しもある〉▼「最後の1イニング」の無念を、新型ウイルスで満足な卒業式を迎えられなかった学生や子供たちにも思う。残された時間にいろんなことがしたかった。その普通に「あるはず」の大切な年度末が突然のゲームセットである▼友達にちゃんとさよならを言えず、お世話になった先生に感謝も伝えられずに別れた人もいたろうか。本来ならば心がじわりと暖かくなる春3月。今年ばかりは弥生の空に無情の風が吹いた▼見えない敵との戦いは長期化の様相だ。自粛や我慢はしばらく続きそうである。旅行も宴会もスポーツ観戦も当分辛抱。思えば私たちも、この春に大いなる「貸し」ができている▼ならばいつの日か、その貸しは何倍にもして返していただこう。お預けを食らった分、これまで以上に楽しく、活気ある日常が戻ってくることを信じて待ちたい。当面は来年になった五輪の歓喜と感動か。そのためにも一人一人の心がけである。今こそ踏ん張らねば。