昨年末、中国でウイルス性肺炎感染が初めて公表されて2カ月。原因と判明した新型コロナウイルスの感染者は中国を中心に日本、韓国、イタリア、イランでも増え続け、世界中に広がった。経済への悪影響は大きく、世界同時株安も招いた。[br] 中国の習近平国家主席は「建国以来、最も困難な公衆衛生事件」として感染封じ込めへ大号令をかけ、毎年3月5日から開く全国人民代表大会(全人代)会議=通常国会=の延期を決めた。感染症対策を優先するほか、全人代には全国から約3千人の代表が参加するため議場での感染を警戒したようだ。4月の習氏の国賓来日も先送りの可能性が出てきた。[br] 世界を揺るがす新型肺炎の震源地、中国の責任は極めて重い。重要な政治日程を延期して感染症の拡大抑止に全力を挙げるのは当然のことだ。中国のインターネットなどでは、政府の初動の遅れや情報隠蔽(いんぺい)、不十分な医療体制に加え、共産党一党支配下の非民主的な政治体制や官僚主義への批判が相次ぐ。[br] 習政権は真摯(しんし)に受け止めて反省し、効果的な感染症対策を進めるべきだ。世界保健機関(WHO)や日本など他の感染国・地域と協力し、国外への拡大抑制や情報公開に努めるなど国際責任を十分に果たしてほしい。[br] 昨年末、湖北省武漢市が初公表した肺炎患者は27人。新型ウイルスの感染力は極めて強く、患者は武漢市から中国全土に急速に広がり、2カ月間で感染者数は約7万8500人に達し、死者数は2700人を超えた。[br] 習氏は1月20日「全力で予防し、制圧せよ」と重要指示を出した。共産党系紙はこの指示まで「有効な予防と抑え込みの措置が取れなかった」と初動の遅れを認めた。[br] 武漢市の若い医師は昨年末にネット上で、肺炎の発生に警戒を呼び掛けたが、警察当局にデマを流したと摘発され、訓戒処分を受けた。医師は新型肺炎で死亡し、ネットでは当局の理不尽な情報隠蔽への反発が殺到した。政府は湖北省と武漢市のトップを更迭したが、問題の根源は「共産党政権と社会の安定」を最優先し、自由な議論や情報公開を認めない非民主的な政治体制にある。[br] 日本でも感染者が増え続けている。グローバル化で日中間の人の往来は急増し、感染症対策などで両国は「同じ船」に乗っている。中国政府は日本からのマスクや義援金などの支援に深い謝意を示した。感染症という人類共通の敵との闘いで協力し、信頼醸成につなげたい。