厚生労働省が、都道府県に新型コロナウイルス患者向けの病床を拡充するよう要請した。第3波ピーク時の2倍の感染者数に対応できる体制構築を目指すが、感染拡大の勢いが再び増している。25日には東京など4都府県で緊急事態宣言が再発令され、他の地域でも病床逼迫(ひっぱく)が早くも深刻化。都道府県が要請に応じられるのか、暗雲が漂う。[br][br] ▽根拠なし[br] 首都圏1都3県の緊急事態宣言が解除された直後の3月24日。厚労省はこれまでの経験や変異株流行を踏まえ、感染者急増時の緊急対応方針を4月中に策定するよう都道府県に求めた。第3波の2倍の感染者を想定し、コロナ以外の手術や入院の延期といった一般医療の制限も認めた。[br][br] しかし、全国の病院が加盟する日本病院会の相沢孝夫会長は「2倍」について「根拠のない数字だ」と憤る。[br][br] 感染症対策の医療提供体制を都道府県単位でやるのか、複数の市区町村で構成する2次医療圏でやるのかも示されていない。「どういう範囲で行うかが決まらないと、対処すべき感染者数も予測できない。国が青写真を示すのが筋だ」[br][br] ▽社会的責任[br] 4月までの対応方針とは別に、厚労省は「一般医療との両立」を前提にしつつ、確保病床数を上積みした新たな計画を作り、5月までに体制を整えることも求めた。[br][br] 限られた病床を効率的に運用するには、退院基準を満たした患者のスムーズな転院が欠かせない。平成医療福祉グループ代表の武久洋三医師は「民間病院にも社会的責任がある。患者のリハビリなど各病院が得意分野を生かした役割分担を進めるべきだ」と述べ、都道府県が調整機能を担う必要性を訴える。[br][br] ▽人材分散[br] そもそも日本は他の先進国と比べて病床数が多い。だが、各都道府県が第3波の際にコロナ患者用に確保していた病床数は、全体の数%程度にとどまり、病床逼迫は防げなかった。[br][br] その理由を、九州大の馬場園明教授(医療政策学)は「病床が多いが故に医師や看護師が分散し、コロナ患者を受け入れるだけの人員が確保できない」と説明する。[br][br] 1973年の老人医療費無料化が背景にあり、高齢者の長期入院に対応するため病床は増えた一方、検査や治療に消極的な「密度の低い医療」の割合が高まったと語る。[br][br] 馬場園教授は「感染症に対応できる人材育成も必要。国は長期的な計画を立てるべきだ」と指摘。現状では急速な感染者増に耐えられる構造にはなっておらず「感染予防を優先すべきだ」とくぎを刺した。