マルクス思想、若者を魅了 資本主義の矛盾指摘で再脚光

 「人新世の『資本論』」(右)など斎藤幸平さんの近著
 「人新世の『資本論』」(右)など斎藤幸平さんの近著
気候変動が国際問題化し、新型コロナウイルスが人々の格差を浮き彫りにする中で、資本主義の矛盾や限界を指摘した19世紀の思想家マルクスがあらためて脚光を浴びている。日本では環境保全論と捉え直した気鋭論客の著書が大ヒット。東西冷戦や学園紛争とは縁.....
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気候変動が国際問題化し、新型コロナウイルスが人々の格差を浮き彫りにする中で、資本主義の矛盾や限界を指摘した19世紀の思想家マルクスがあらためて脚光を浴びている。日本では環境保全論と捉え直した気鋭論客の著書が大ヒット。東西冷戦や学園紛争とは縁遠い若い世代が、新たな生き方の指針として魅力を感じているようだ。[br][br] 「初めてマルクスという人を知りました」。NHK・Eテレの人気番組「100分de名著」が1月に取り上げたのは、マルクスの主著「資本論」。テキストを刊行したNHK出版には放送後、20~30代から反響の手紙が続々と届いた。シングルマザーだという女性は「都会から田舎へ引っ越し、農業を始めました。大量消費の価値観からの転換を実践したくて」。 [br] 丸善丸の内本店(東京)は「甦るマルクス」と題した特集コーナーを設置。人文書担当の沢樹伸也さんは「コロナ禍の巣ごもり需要で、難しい人文書に手が伸びている」。若い男女が本を吟味する姿が目立ち、2カ月で約1600冊が売れた。[br][br] 1818年にドイツで生まれ、資本主義の発展に遭遇したマルクスは、労働者の搾取や環境破壊が深刻化する社会を分析し、破局の到来を予言。目先の利益しか見ない資本家の傲慢を「大洪水よ、わが亡き後に来たれ!」と表現し、皮肉った。[br][br] そして現代。「大洪水」を裏付けるように、世界の富が全人口の1%に集中する格差を人類学者グレーバーや経済学者ピケティが、環境危機をジャーナリストのナオミ・クラインが指摘。その近著はいずれも世界的ベストセラーとなっている。[br][br] 日本でのマルクス人気は、「100分de名著」で解説を担った大阪市立大准教授、斎藤幸平さん(34)が火付け役に。昨秋刊行の著書「人新世の『資本論』」(集英社新書)は発行25万部を超え、編集者や書店員らが選ぶ「新書大賞2021」の大賞も射止めた。従来の「マルクス本」との最大の違いは、その思想を環境保全の観点から捉え直し、資本主義に新たな対案を示した点だ。[br][br] 国連などが掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の実現は、利益追求が本質の資本主義の下では「丸い三角を描く」のと同様に不可能だと主張。晩年のマルクスは循環型社会「脱成長コミュニズム」を構想していたとして、スペイン・バルセロナの実践例などから理想の将来像を提示した。[br][br] 「環境破壊に加担する国や企業を非難したグレタ・トゥンベリさんの影響で、この本を手にした若者も多いのでは」と集英社の編集者。斎藤さんは「コロナ禍で社会的な弱者ばかりが苦しむのを見て、多くの人々が資本主義の矛盾に気付いた」と指摘し、「未来につけを回すのはもう限界。人々の3・5%が非暴力的に立ち上がれば、社会は変わる。アクションを促したい」と話した。 「人新世の『資本論』」(右)など斎藤幸平さんの近著