新型コロナウイルスに対応する「まん延防止等重点措置」の適用対象に埼玉、千葉、神奈川、愛知の4県が追加される。緊急事態宣言よりも機動的な活用を想定していたが、実際は感染拡大を後追いする形に。政権と自治体の危機意識にずれが生じ、対策の実効性を疑問視する声が強まる。[br][br] ▽さみだれ式[br] 重点措置は緊急事態宣言に至る前段階で感染の「芽」を摘むのが目的だ。しかし5日から適用された大阪府では拡大傾向が止まらず、13日には新規感染者が初めて千人を超えた。専門家からは「イメージは緊急事態」(厚生労働省への助言組織メンバー)との見方も出ており、政府がアピールしてきた「機動性」はかすんで見える。[br][br] 政府の対応が遅れた原因は何か。首相官邸内では、自治体から正式な要請があれば「速やかに適用せざるを得ない」との意見があった一方、来週の感染状況を見極めてからでも遅くはないとの声も根強かった。[br][br] 判断が揺れた背景には「元々生煮えでつくった制度。必ず効果が生まれるという魔法のカードではない」(政権幹部)との考えがある。国会報告などの手続きを考慮すれば「さみだれ式ではなく、複数をまとめて追加したい」(首相周辺)政府の意向も影響した。[br][br] 菅義偉首相は15日、バイデン米大統領との会談のため日本を出発し、18日に帰国。コロナ対策の重要な節目が外遊やその事前準備と重なった。官邸内には「国民に感染防止を訴えるには、帰国後に首相自ら発信した方がいい」(幹部)との声もあったが、出発前に決断した。自治体サイドから出ていた不満の声に促された可能性もある。[br][br] ▽先延ばし[br] 感染者が増加傾向にある埼玉県の大野元裕知事は13日、記者団に「先手を打つ」と話し、政府に重点措置を要請する意向を事実上表明した。ところが準備に着手していた翌14日、政府側から「待ってほしい」と連絡があった。県幹部は「飲食店への営業時間短縮要請の期限が来週に迫っている。政府は何を考えているのか」と困惑した。[br][br] 感染が再拡大している愛知県の大村秀章知事は14日の記者会見で「国からは(政府の)対策本部会合の前日に要請するよう言われている」と明かした。13日に重点措置の要請を表明したものの、政府側の日程が定まらない状況に「今週末や週明け、いろんな声があるが、先延ばしする理由がない」といら立ちを隠さなかった。[br][br] 神奈川県の幹部は「感染拡大を抑えきれない状態で宣言を解除した。重点措置にどこまで意味があるのか」と、制度自体に疑問を投げ掛ける。[br][br] ▽対症療法[br] 「東京も早晩大阪のようになる可能性がある。急激な拡大を想定した方がいい」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は15日の記者会見で訴えた。人の往来が激しく、かつては「一体の対策」を強調していた首都圏だったが、今回は東京都への重点措置適用が先行した。15日の新規感染者数は周辺3県だけでなく都も前日を上回った。[br][br] 日本大危機管理学部の福田充教授は、自治体の要請を受ける形で重点措置を適用する政府の姿勢を「対症療法的。感染者増の予兆がある時点で先手を打ってもよかったのではないか」と指摘。「国民にとっては緊急事態宣言との違いが分からず、行動変容を促す効果は生まれにくい」と話した。