【原発処理水海洋放出】トップ会談直後に押し切る 肩落とす漁業関係者

 東京電力福島第1原発の敷地内に林立する処理水などが入った円筒形のタンク。奥は3号機建屋=2020年8月、福島県大熊町
 東京電力福島第1原発の敷地内に林立する処理水などが入った円筒形のタンク。奥は3号機建屋=2020年8月、福島県大熊町
東京電力福島第1原発で増え続ける処理水を巡り、政府が海洋放出の処分方針を固めた。全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長と菅義偉首相とのトップ会談からわずか2日。政府が漁業者側の根強い反対を押し切った形。「これからという時に…」。本格操業に向け.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水を巡り、政府が海洋放出の処分方針を固めた。全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長と菅義偉首相とのトップ会談からわずか2日。政府が漁業者側の根強い反対を押し切った形。「これからという時に…」。本格操業に向け意気込む福島県の漁業関係者は肩を落とした。[br][br] ▽危機感[br] 「近日中に政府方針を決定したい」。7日午後、全漁連の岸宏会長と官邸で面会した首相は表明した。処理水処分について「いつまでも先送りできない」と繰り返し強い危機感を訴えてきた首相。節目として岸氏との会談を重視していた。[br][br] 面会には北海道から千葉県までの沿岸6道県の漁連会長らも同席。「何があっても漁業を継続することが統一した意思だ」(福島県漁連の野崎哲会長)など、口々に風評被害の懸念や放出反対の意向を訴えた。[br][br] 岸氏は面会後、処分方針の内容にかかわらず、(1)漁業者、国民への説明(2)風評被害への対応(3)安全性の担保(4)漁業が継続できる方策の明示(5)タンク増設や新たな処理、保管方法の検討―を求めたことを明らかにした。[br][br] ▽疑念[br] 処理水には多核種除去設備(ALPS)で浄化しても取り除けないトリチウムなどの一部の放射性物質が残る。国や東電は、海洋放出の場合、トリチウムの濃度を基準値の40分の1に当たる1リットル当たり1500ベクレル以下にする案を示している。人体への影響は少ないとされるが、安全性への懸念は根強い。[br][br] 特に東電は、福島第1原発で故障した地震計を放置していたほか、柏崎刈羽原発(新潟県)の核物質防護不備を巡って原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受ける見通しに。「近々の不祥事を鑑みた場合、安全性の担保に極めて強い疑念を抱かざるを得ない」(岸氏)状況だ。[br][br] さらに、トリチウム以外は除去できると説明していたにもかかわらず、浄化後の水の約8割にトリチウム以外のヨウ素129などの放射性物質が残留していることが、ALPS稼働から約5年がたった2018年に判明した経緯もある。[br][br] ▽溝[br] 福島県沖は暖流と寒流がぶつかる豊かな漁場で、ヒラメやスズキなどは「常磐もの」として東京・築地などでも高値が付いていた。しかし原発事故で全面的な操業自粛に追い込まれた。[br][br] 12年6月に魚種や海域を絞った「試験操業」を開始。20年の漁獲量は約4532トン(速報値)にまで回復したが、それでも事故前の10年の約17%にとどまる。[br][br] 国が定めた食品に含まれる放射性物質の基準値は1キログラム当たり100ベクレルだが、福島県漁連は、より厳しい同50ベクレル以下を満たした海産物を出荷してきた。[br][br] 今年3月には、本格的な漁業復興に向け、試験操業を終了して操業の自主的な制限を段階的に緩和していく方針を決めたばかり。福島県いわき市の底引き網漁師新妻竹彦さん(60)は「科学的に安全だからといって、ごみを職場(漁をする海)に置かれたら誰でも怒るはずだ」と憤った。[br][br] トップ会談を経て、首相周辺は「全漁連が海洋放出に反対なのは分かっていた。それでもトップ同士が会えたのは、話ができる証拠だ」と手応えを口にしたが、溝は埋まらないままだ。 東京電力福島第1原発の敷地内に林立する処理水などが入った円筒形のタンク。奥は3号機建屋=2020年8月、福島県大熊町