「物言う株主」との対立が激化していた東芝に、外資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが出資して株式を非公開化する「荒技」による局面打開が浮上した。原子力などの国策を担う名門企業の行方は、米中対立で国際関係の新たな焦点となった経済安全保障と密接に絡んでおり、外資規制を審査する立場の国の判断も注目される。[br][br] ▽排除[br] 「取締役会で議論する」。CVCなどによる買収提案が明らかになった7日朝、記者に囲まれた東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)は慎重な言い回しに終始した。だが役員選任などを巡り大株主からの攻勢にさらされる車谷氏にとって、株式の非公開化は大きなメリットがあるとみるのは自然だ。[br][br] にらみ合う大株主は、旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントなど。不正会計の発覚後に経営危機に陥った東芝の増資を引き受けた。今年3月の臨時株主総会で議決権の誤集計問題の調査を求める提案可決を実現するなど次々と影響力を行使し、6月の定時総会での車谷氏再任も安泰ではない。[br][br] 車谷氏は東芝の取引銀行である三井住友銀行副頭取のほか、CVCの日本法人会長も務めた経歴があり、業界では「物言う株主を排除するため、CVCと協力して買収を計画しているのではないか」(金融関係者)との見方も出ている。[br][br] ▽曲折[br] 企業がファンドの支援で株式を非公開化した例は過去にもある。外食大手すかいらーくは経営環境の悪化から2006年に経営陣による自社買収(MBO)を実施。14年に再上場するまでの過程では、出資した野村ホールディングス傘下のファンドとCVCによる創業者一族の社長解任など曲折を経た。[br][br] 独立系投資ファンドの出資でMBOを実施した飲料大手ポッカコーポレーションは、05年に上場を廃止し経営改善に取り組んだが、単独での生き残りは厳しいと判断し11年にサッポロホールディングスの子会社となった。非公開化が経営陣の当初の狙い通りに進むとは限らない。[br][br] いちよしアセットマネジメントの秋野充成取締役は「東芝には、現在の経営方針では会社の将来像が描けないとの株主の懸念が向けられている」と指摘。「『物言う株主』の意見に振り回されないためだけに株式を非公開化するのは意味がない」と強調する。[br][br] ▽懸念[br] 外資規制の対象となる国内企業の買収を巡っては、08年に電源開発(Jパワー)の株式取得を目指した英投資ファンドに対し、「電力の安定供給に影響を与える恐れがある」として政府が取得の中止を命じた例がある。[br][br] 東芝は原子力事業に加え、半導体大手キオクシアホールディングスの株式も約40%保有。半導体は安全保障を巡って対立する米国と中国が開発にしのぎを削る戦略物資で、経済産業省の幹部は買収で重要技術が海外に流出する可能性を指摘し「懸念は大きい」と話す。[br][br] 政府は今後、CVCから東芝買収に絡む届け出があれば、外為法に基づいて詳細を審査する。ただ審査の基準は明示しておらず、政府関係者は半導体などを念頭に「重要技術は国として守る必要がある」と強調した。