天鐘(4月2日)

「春はあけぼの」。清少納言の随筆『枕草子』は移りゆく季節への賛歌で始まる。早起きして東雲(しののめ)の風情を楽しんだ平安の貴族社会と、目覚ましで飛び起き、あくせく仕事に向かう現代人。何と生活感の違うことか▼中世の歌なら春は花、夏は時鳥(ほと.....
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 「春はあけぼの」。清少納言の随筆『枕草子』は移りゆく季節への賛歌で始まる。早起きして東雲(しののめ)の風情を楽しんだ平安の貴族社会と、目覚ましで飛び起き、あくせく仕事に向かう現代人。何と生活感の違うことか▼中世の歌なら春は花、夏は時鳥(ほととぎす)、秋は紅葉、冬は雪が定番。それを彼女は「春はあけぼのよ」と主張、そして夏は夜、秋は夕暮れ、冬は早朝と独自の感性を披露した▼移ろいを何で感受するかは人それぞれ。彼女は「夏は蛍」「秋は烏(からす)や雁、虫の音」に季節の趣を感じ取った。気象庁は時代を超えて、季節の到来を告げる植物34種、動物23種を気象変動の一環として観測してきた▼桜や梅の開花は勿論、鶯や郭公(かっこう)の初鳴きなどを昭和28年から67年間、目と耳で拾って記録してきた。だが、昨年末で全動物と植物28種の合計51種の観測を終了。桜に梅、芒(すすき)と楓(かえで)など植物6種を辛うじて残した▼「生物季節観測」の大胆な“リストラ”である。都市化など環境の変化で野鳥や昆虫がなかなか見つからなくなったことや、自然災害の頻発で防災業務が増加しているため、泣く泣くの縮小では致し方ないだろう▼コロナの巣ごもりで季節感は薄れるばかりだ。花鳥風月への思いは伝承できても、積み重ねた観測データが途切れるのは勿体ない。蝉(せみ)の鳴き声や燕(つばめ)に蜻蛉(とんぼ)の飛来、菫(すみれ)や山吹、水仙の開花など風物詩の観測を引き継ぐ術はないものか―。