天鐘(4月1日)

雪原に倒れている男を助けたら神様だった。たった1発の銃弾で16羽の水鳥を仕留めた―。口ひげが左右に跳ね上がった貴族が雄弁に武勇伝を語る。世界で愛される児童書『ほらふき男爵の冒険』である▼主人公はヒエロニュムス・カール・フリードリッヒ・フォン.....
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 雪原に倒れている男を助けたら神様だった。たった1発の銃弾で16羽の水鳥を仕留めた―。口ひげが左右に跳ね上がった貴族が雄弁に武勇伝を語る。世界で愛される児童書『ほらふき男爵の冒険』である▼主人公はヒエロニュムス・カール・フリードリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼン。ホラのように長い名前だが、18世紀のドイツに実在した人物。民話を基にした滑稽譚(たん)は、無類の話し好きだった男爵を語り部に進行する▼古典は翻訳されて各国に広まり、さらに様々な作家が筆を入れた。映画もある。変化形は百を超えるとも。現代風に仕立てたり、社会風刺を加えたり。寺山修司や星新一も、着想を得た作品を発表している▼奇想天外、そして荒唐無稽。ホラ話のことを信じる人は、そういないはずだ。空事と承知の上で耳を傾け、ユーモアに頰を緩める。悪意がなく誰も傷つかない。だから古くから人々に親しまれてきたのだろう▼大言壮語から新たな歴史が生まれることもある。新世界を発見したコロンブス、維新の扉をたたいた坂本龍馬…。志を高く、信念に生き、大業を成し遂げた。ホラ吹きとの嘲笑は、後に偉人との称賛に変わった▼ホラは嘘の一種だが、ある意味では夢なのかもしれない。きょうはエープリルフール。嘘が許されたとしても、世間を騒がせるガセ、他人をおとしめるデマはお断り。未来を展望するホラなら明るい。