【SNSでつながる】がんサバイバー26人歌集 同じ悩みの人々にエール

 歌集「黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える」
 歌集「黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える」
がんを経験し会員制交流サイト(SNS)などでつながった女性26人が、日々の恐れや希望を短歌に詠んだ歌集を出版した。企画した尾崎祐子さん(37)は、新型コロナウイルス禍と治療が重なり不安を強める人々にも思いをはせ「短歌は31音で覚えやすく、語.....
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 がんを経験し会員制交流サイト(SNS)などでつながった女性26人が、日々の恐れや希望を短歌に詠んだ歌集を出版した。企画した尾崎祐子さん(37)は、新型コロナウイルス禍と治療が重なり不安を強める人々にも思いをはせ「短歌は31音で覚えやすく、語り過ぎない分、読者が思いを重ねやすい。同様の悩みを抱えるサバイバーにエールを送りたい」と語る。[br][br] 〈生まれたての傷をいたわる初めての沐浴に似た戸惑いの手で〉[br][br] 〈イヤフォンでふさぐ産声 婦人科と産科を兼ねた待合室で〉[br][br] 〈冬瓜がとろり澄みゆく瞬間を見逃さないこと生きてゆくこと〉[br][br] 「黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える」(左右社)は10~50代の約100首を収録。表題通り多様な作品が並ぶ。短歌になじみの薄い読者にも配慮し、第1章は1首と挿絵を見開きで並べ、第2章は読み応えのある連作で構成。歌とエッセーを組み合わせた第3章では、がんへの理解促進も図った。[br][br] 尾崎さんは2年前に子宮頸(けい)がんと告知され、関連の本やブログを読みあさったが、寄り添ってくれるような文章とは出合えなかった。「必ずしも正しい情報が欲しいわけではなかった。『大丈夫だよ、元気に生きられるから』という安心感が欲しかった」[br][br] そんな中、SNSなどで知り合ったがんサバイバーと「体験を形に残したい」と意気投合し、本の出版を目指すことに。がん医療の世界で「AYA世代」と呼ばれる若年層を意識し、記憶に残りやすく、何でも題材にできる短歌を詠むことに決め、参加者を募った。[br][br] 集まった女性の6割以上が短歌の初心者で、歌人の岡野大嗣(だいじ)さん(41)に依頼し、ビデオ会議システムも活用して指導を受けた。岡野さんは「がんに悩む人を勇気づけたいとの思いが先に立ち、言葉が借り物になりがちだった。心が感じたことを見つめるため『自分に手紙を書くように』と伝えた」と振り返る。[br][br] 〈明日からわたしがいないこの部屋の波打つ髪を吸いためておく〉[br][br] 〈鍵もたず朝の玄関でるように母と別れた手術室前〉[br][br] 〈学生のはしゃいで歩く群れにまだ病気知らずのわたしが見える〉[br][br] 「歌にすることで長期的な視野が持て、不安が和らいだ」と語る尾崎さんは「つらい経験が自分を強くしなやかにしている」とも言う。クラウドファンディングで費用を募ると、半日で目標額に達し、4日で倍近い125万円に。歌集は全国50以上の病院に寄贈した。[br][br] がん治療中はコロナの重症化リスクが高いとされ、交流の機会も減っている。尾崎さんは「読み終えた人が自信や希望を持ち、前向きになってもらえたら」と期待。岡野さんも「歌集としても良いものになったと思う。いろんな人がいろんな共感のポイントを見つけられるのでは」と話す。 歌集「黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える」